本研究では,漆器木地作製において実際に使用されている燻煙乾燥が木材の物性に及ぼす影響を明らかにするため,長さ35 cmのスギ丸太を30日,60日及び90日間燻煙乾燥した。90日間の燻煙乾燥中の処理室及び材内の平均温度は,33℃及び30℃であった。含水率は,燻煙乾燥90日後において,心,辺材ともに約10%の値を示した。平衡含水率及びセルロース相対結晶化度は,天然乾燥材と燻煙乾燥材の間に有意な差は認められなかった。一方,含水率1%あたりの平均収縮率は,半径及び接線方向のいずれにおいても,天然乾燥材よりも燻煙乾燥材においてわずかに小さい値を示した。また,燻煙乾燥日数の増加に伴って,比曲げヤング率の向上が認められた。これらの結果から,比較的低温で長時間の燻煙乾燥による木材の収縮率の減少及び比ヤング率の増加が,漆器木地の品質の向上に影響を及ぼしていることが示唆された。