心持ち無背割り材の人工乾燥において広く用いられている高温セット処理による乾燥日数の短縮効果を明らかにするため,スギ心持ち正角6種類の断面寸法を対象に,その短縮効果を定量的に評価した。その結果,一般的な断面寸法である120,135 mm角で約4日,165~320 mm角で4日~9日程度の短縮効果があることが明らかとなった。また,乾燥曲線モデルに用いた乾燥速度係数kは,断面寸法が大きくなるにつれて小さくなり,それらは反比例の関係にあることがわかった。従来の乾燥曲線モデルでは直接適用できなかった高温セット処理と中温乾燥の組み合わせにおいても乾燥日数を推定することが可能となった。
ヨーロッパトウヒ人工林の間伐施業による年輪構造への影響を把握するため,間伐強度の異なる5種類の試験区(本数間伐による間伐率0~78%)の林齢60年生の試験木50本を用い,軟X線デンシトメトリ法で年輪幅及び年輪密度について調べた。間伐強度が高まると年輪幅は広くなる傾向が見られた。間伐率30%の試験区と間伐率15%の試験区の平均年輪幅を比べると間伐率30%の試験区の方が年輪幅は狭く,局所的な環境要因の影響が認められた。年輪密度は髄に近い部分で高く,林齢20年次くらいまで一時的に低下した後,樹皮に向かって増加する傾向が見られた。しかし,間伐強度が高くなると,林齢に伴う年輪密度の増加が抑制される傾向を確認した。このため,高い間伐強度は材としての密度低下が懸念された。
筆者らはこれまで,北日本の山形県庄内地方において,サクラてんぐ巣病の被害発生状況をソメイヨシノとオオヤマザクラに関して調査し,有病枝を切り落とす手入れをしていないソメイヨシノの有病率は高く,オオヤマザクラの有病率が低いことを明らかにした。さらに北方の北海道において,函館・札幌に多いソメイヨシノ,全地域に多いオオヤマザクラのサクラてんぐ巣病の発生状況を調査した。函館におけるソメイヨシノでは有病率が78%であり,山形県庄内地方における手入れをしていない立木と同様に高い値であった。北海道全地域に植栽されているオオヤマザクラについても,ソメイヨシノと同様に手入れがされていない立木が多い函館で53%と高く,管理体制が整っている札幌は0%,旭川では5%の有病率であり,手入れの有無が有病率を左右していることが示唆された。サクラ類はサクラてんぐ巣病の進行とともに樹幹折損や枝抜け,樹幹の変形が進む。これらの症状が顕著になる大径・老齢化する時期の胸高直径はソメイヨシノが40 cm以上,オオヤマザクラは30 cm以上と考えられた。この時の採材可能と推定された材積は丸太と枝条合計でソメイヨシノ0.40 m3,オオヤマザクラ0.28 m3で同じサイズのスギとほぼ同程度の材積であり,サクラ類の丸太はフローリング材等,枝条は燻製用チップやボイラー燃料として活用できることが期待される。
埋設状態の木杭の質量,密度およびヤング率を推定する方法を開発する目的で試験体質量を測定せずに振動試験から試験体質量を推定する方法(質量付加振動法)を木杭に用いた。断面25 mm(Radial)× 5-25 mm(Tangential), スパン275 mm(Longitudinal)の矩形断面材および直径140 mm,長さ4 mの円柱状の木杭を用いた。試験体に集中質量を加除して曲げ振動試験を行った。曲げ振動試験は杭頭から1 mの部分を地中から露出させて行った。木杭は全て健全であった。地盤が均質であれば埋設後10年程度の間は木杭の地中部の端末条件の完全さの程度として初期値を利用可能であると考えられた。質量付加振動法による木杭の質量は木杭の地中部分の端末条件の完全さを利用して補正できた。これに基づき木杭の質量を現場で簡便に推定する方法を提案した。地盤の均質の程度を振動試験から検出できる可能性が示された。
木材利用の拡大を検討する上で,公共建築物の木造化および木質化(木造木質化)は重要である。市区町村の本庁舎建設を対象に,その森林率および林業関連部署の有無が本庁舎の木造木質化に及ぼした影響を整理するとともに,市区町村における本庁舎建設の際の木造木質化の主要な論点を検討した。対象とした市区町村を木造,木質化,非木質化グループに分類した結果,全体の10.4%が木造化グループ,83.2%が木質化グループ,6.4%が非木質化グループとなった。グループ間の比較を行った結果,森林率が高く,林業関連部署を有する市区町村の方が積極的に本庁舎の木造木質化に取り組んでいた。本庁舎建設に関する委員会等の議事録を計量テキスト分析した結果,本庁舎の建設に際し,林業振興の観点から地域材の活用が期待されるが,地域材の調達に時間を要する点,木造の耐震性,防耐火,免震性能,建設費用への懸念が課題として挙げられた。