京都府京都市に位置する茶室建築金地院八窓席で修理工事に先立ち,部材の樹種識別調査を行った。京都府文化財保護課および金地院のご協力のもと,試料採取を行った。樹種識別が可能となる最小限の大きさのサンプルを部材の樹皮下や割れ目や傷んでいるところより採取し徒手切片を作製したのち,光学顕微鏡により解剖学的特徴を観察して樹種識別を行った。金地院は小堀遠州の作といわれており,今回の識別結果より遠州の樹種選択についての科学的な知見を得ることができた。識別を行った結果,例えば,ニヨウマツ類やサクラ属が柱材に使用されていたことがわかった。樹種識別調査は,修理の際に部材の樹種を科学的に調査して,補修材の樹種選択に有益なだけではなく,その建築物の歴史的背景や価値,流通などを解明する上でも大変有効であると考えられ,学際的な研究の一環としても今後増加することを切望する。