本稿の目的は,小西聖子が犯罪被害者支援に携わる精神科医としての「専門性」をいかにして形成したのかを,精神的被害の管轄権とケアの非対称性に注
目して明らかにすることである.
小西は,第1 に,法学者や法律の実務家というほかの領域の専門職が2 次被害を予防するために精神的被害を理解する必要があるとしたうえで,法的な枠
組みにおいてとりこぼされる精神的被害を測定することによって,「専門性」を担保しようとした.第2 に,精神科医―クライエント間の関係の非対称性が
露呈することによって生じる2 次被害を予防しながらも同時に治療効果のある,有効な治療法を洗練することによって,「専門性」を担保しようとした.
以上の2 つの「専門性」は,誰に対する「専門性」なのかという点と,精神科医の加害者性が問題になるか否かという点において,異なる水準のものだっ
た.しかしそれらが組み合わさることによってこそ,カウンセリングの実務に従事しつつも法制定を求めるかたちで犯罪被害者支援に携わる,精神科医の「専
門性」が形成された.
本稿は,これらの2 つの「専門性」に注目することで,犯罪被害者支援の基盤をつくった精神科医の活動がいかにして可能になったのか明らかにした.そ
のことによって,先行研究によって十分に検討されてこなかった,犯罪被害者を対象にする福祉実践の基盤の歴史的な形成過程を明らかにした.