福祉社会学研究
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最新号
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┃特集論文Ⅰ┃「ストック」の福祉社会学
  • 三谷 はるよ, 佐藤 和宏
    2023 年 20 巻 p. 7-11
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー
  • 近年の研究動向と今後の課題
    竹ノ下 弘久
    2023 年 20 巻 p. 13-29
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    本稿は,近年の社会階層論における資産の不平等に関する研究動向について,欧米の先行研究を中心に論点を整理し,社会学における資産研究の理論と知見の見取り図と近年の研究の到達点について考察する.ウェーバーは資産を,不平等を構成する重要な基盤ととらえたが,戦後の階層研究は,労働市場における職業的地位を中心に,階級・階層を概念化したことで,資産への関心は大きく後退した.欧米諸国では近年,資産格差と人々のライフ・チャンスへの影響について,いくつかの研究が行われている.本稿では,資産のとらえ方とその特徴を概観した後,資産が人々のライフ・チャンスにどう波及するかについて,教育達成と職業達成,結婚と家族形成,高齢期の階層という観点から検討を行う.その上で,近年の世代間における資産の連関や維持・再生産が生じるメカニズムを,ライフサイクル・モデルと世代間移動モデルの 2 つに区分して論じる.資産の世代間における維持・再生産については,従来の世代間移動研究で支配的な 2 世代モデルだけではなく,3 世代以上の多世代モデルが有効である.

  • 祐成 保志
    2023 年 20 巻 p. 31-51
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    本稿は,住宅というストックに注目し,住宅と福祉国家の関係について理論的な検討を行う.ケメニーが「埋め込み」という概念で示そうとしたように,住宅は社会構造に深く浸透しているため,対象化が難しい.住宅を論じる語彙にも注意を払う必要がある.英語の「housing」が有する,居住の必要を充足する過程という意味を表現するため,本稿では「居住保障」という概念を用いる.居住保障政策にとって最も重要な介入対象は民間賃貸セクターである.民間賃貸セクターには,住宅市場で取引される商品としての住宅と,居住の必要を充足する手段としての住宅の矛盾が集中的に表れる.多くの先進国では,政府による介入手段として,1970 年代以降,「対物補助」から「対人補助」への移行が進んだ.ただし,「対人補助の主流化」によって,かえって居住のアフォーダビリティが損なわれ,居住の不平等を助長するおそれがある.居住保障において決定的な手段は存在せず,複数のアプローチの混合が求められる.その際,どのような選択肢が利用可能で,どこに重点が置かれるかによって,レジームというべき型が識別できる.近年の比較研究は,金融という次元を考慮に入れた歴史社会学的分析により,居住保障と福祉国家の関係についての理解が刷新される可能性を示唆している.居住と福祉の間には根本的な緊張関係が存在する.それゆえに居住は,ポスト福祉国家の構想にとって要の位置にある.

  • 生活困窮者への貸付はどう位置づけられてきたか/位置づけることができるか
    角崎 洋平
    2023 年 20 巻 p. 53-71
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    本稿は,生活困窮者向け貸付事業が,いかなる目的をもとに,どのような機能を担ってきたのか,そして今後どのような機能を担いうるのか,を考察するものである.本稿は,日本の生活困窮者向け貸付事業である生活福祉資金貸付が,世帯更生資金貸付と呼ばれていた時代にさかのぼり,その現代まで続く歴史を確認する.まず,世帯更生資金貸付が,生活困窮者の生活基盤強化を目的として,生業のための事業用の資産を対象に貸付する制度として創設されたことを明らかにする.その後世帯更生資金は,生業のためのストックの保障を目的としたものから,住居や教育といった別のストックを保障するための貸付も視野に入れたものへと多様化していく.ただし,生活困窮者向け貸付事業が,現在の新型コロナ感染症対策特例貸付でみられるような,フローの家計収支の赤字を補完する貸付を中心としたものに変容していくのは 2000 年代以降のことである.本稿では,このような変容は,すくなくとも世帯更生資金から生活福祉資金への名称変更の時期には想定されていなかったことだと指摘する.本稿では最後に,全国社会福祉協議会の委員会における議論を参照して,貸付によってフローの生活保障を行うことに限界があることを指摘し,生活困窮者向けの貸付が個人のストックを強化するのみならず,地域のストックを強化するものにもなり得ることを指摘する.

┃特集論文Ⅱ┃福祉制度と非正規公務員――会計年度任用職員制度成立を受けて
  • 会計年度任用職員制度成立を受けて
    畑本 裕介
    2023 年 20 巻 p. 75-79
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー
  • 経過・現状・問題
    上林 陽治
    2023 年 20 巻 p. 81-103
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    2021 年 4 月 1 日施行された地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律は,市町村において,既存の相談支援等の取組を活かしつつ,地域住民の複雑・複合化した困難への支援ニーズに対応する包括的な支援体制を構築し,新たな事業及びその財政支援等の仕組みを創設しようとするものである. 地方自治体とりわけ住民に身近な基礎自治体である市区町村に相談窓口を設置し,相談者に対する支援を義務付ける法律は,バブル崩壊後の 1990 年代に続出し,2000 年代に入ってからは「ビッグバン」と表現することが過言でないほど増大した. ところが,1990 年代以降今日に至るまで,「小さな政府」への志向性が高まるなかで公務員定数は削減されつづけ,義務付けられた相談支援業務を専門的に担う職員の確保は覚束なかった.そこで地方自治体は,非正規公務員を大量に採用し,増大する相談支援業務にあたらせてきたのである. すなわち地方自治体の相談支援業務は,非正規公務員を主たる担い手として進展してきたのである. 相談支援を包括化し,地方自治体業務のメインストリームにしようとする今日の状況下で,はたして官製ワーキングプアと揶揄される非正規公務員による実施体制のままでよいのか,どこに歪みが生じているのか,このような相談支援体制に持続可能性はあるのか,問題があるとすればどこを見直すべきなのか.

  • 桜井 啓太
    2023 年 20 巻 p. 105-124
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    生活保護ケースワーカー(現業員)の人員不足はよく知られる一方で,福祉事務所の人員体制の詳細についてはほとんど実態が知られていない.自立支援プログラム以降(2005 〜),福祉事務所の「機能強化」「質の向上」という名目で数多くの非常勤職員・委託職員が配置されている.本稿ではこの福祉事務所の非正規化の進行を明らかにする.47 都道府県の市部福祉事務所(1,021か所)の人員体制に関わる行政資料を分析し,全国で 7,000 人を超える非常勤職員等が配置されている実態が明らかになった.次にケースワーカー(正規職員)の充足率と非正規化率に基づいて,全国の福祉事務所を「ハイブリッド型 /非正規代替型/人手不足型/正規中心型」の4類型化し,地域による傾向の差異を比較分析した. 以上の分析から生活保護において重用される「自立支援」や「適正化」という理念が,政策展開する上で供給主体(福祉事務所)の非正規化を招き寄せる構造を考察し(自立支援・適正化と非正規化の共犯関係),最後に生活保護ケースワーク論として有名な「統合・分離論争」に触れ,論争が見逃していた分離と統合の交錯が引き起こす官の拡大という事態を見通すため「複合体論」を提唱する.

  • 公務非正規女性全国ネットワークの調査から
    瀬山 紀子
    2023 年 20 巻 p. 125-143
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    本稿は,社会福祉領域を含む公務分野で広がる非正規公務員の実態とその経験を,当事者による実態調査を用いて明らかにすることを目的とした.本稿が用いるデータは,筆者も立ち上げに関わった,公務非正規女性全国ネットワークが,発足当初の 2021 年と 2022 年に行ったインターネットによる調査をもとにしている. 非正規公務員は,国家公務員の非常勤職員が約 16 万人,地方自治体に直接任用されている人が短時間の人を含めると,約 112 万人いる.そのうち,国家公務員の“事務補助職員”に占める女性の割合は 88.9%,地方自治体の会計年度任用職員は 76.6%となっている.国は,2020 年度,増加した地方自治体の非正規職員を位置づける新たな法律を施行し,会計年度任用職員制度が開始された.相談支援などに関わる社会福祉領域の専門職なども,多くが,会計年度任用職員に位置づけられた. 公務非正規女性全国ネットワークが行った調査では,会計年度任用職員等として働く公務非正規労働従事者の多くが,単年度任用という不安定な任用形態で,低賃金で,低い待遇のもと,不安を抱えながら働いている現状が明らかとなった.論考では,市民からの相談などに対応する相談員自身が,不安を抱えながら相談支援に当たっている実態を,当事者による自由記述によって記した. 本稿では,公務領域の福祉専門職のあり様の実態を元に,その職のあり方の将来への問いを示した.

┃自由論文┃
  • ひきこもり傾向の概念分析
    桑原 啓
    2023 年 20 巻 p. 147-169
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    本稿では,状態としてのひきこもりを伴いつつも,必ずしもひきこもりと同定されないひきこもり傾向概念の使用法の分析を行う.そして,最終的に,ひきこもり現象に立ち返り,どのようにして多様化するそれを対象化すべきか明らかにすることを目的とする. 本稿は分析方法として,エスノメソドロジーに基づいた概念分析を用いた.ここで,概念分析とは,カテゴリカルな概念が,行為者によっていかにして参照され,実践的(戦略的)に用いられているかにかんする記述・分析の方針である.また,本稿の主な対象は,『読売新聞』と『朝日新聞』における記事である.それらとは別に,専門家や当事者による記述や発信もまた参照した. 結果として,次の 3 点が見出された.①ひきこもり傾向とその理由の説明は不可分であること.②「迷惑をかけないためにひきこもり傾向に至る」(論理 A),「ひきこもり傾向にあることで,他者や社会に迷惑をかけている」(論理 B)という両義的側面.③論理 A が前景化することで,論理 B が隠蔽されるという二重の排除図式(排除の曖昧化). 以上より,特に論理 A は,社会的孤立にかんする言説と不可分であるため,ひきこもり現象は社会的孤立として扱われるべきではない.むしろ,ひきこもりというカテゴリー内部の差異の記述を徹底すべきである.

  • 関係性と規範に着目して
    牧 陽子, 山本 菜月
    2023 年 20 巻 p. 173-194
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    家族の変容や社会環境の変化に伴い,介護をめぐる規範に大きな揺れが生じている今日,介護を行う前の世代の人たちは,将来の親の介護について,どのような意向をもっているのだろうか.本稿は,成人子の介護意向について,関係性と規範という二つの要素に焦点をあて,介護意向の男女別・親別の分布状況の検証と,介護意向に作用する要因について二項ロジスティック回帰分析を行った. その結果,関係性,規範という二つの異なる要因が併存して現代の 30~40歳代の介護意向に影響しているという示唆が得られた.介護意向の分布では,女性はいずれの親に対しても,男性より有意に介護意向が高く,女性が介護するものというジェンダー規範の存在が考えられる.二項ロジスティック回帰分析では,実親に関して女性は父との関係良好度が,男性は父母との関係良好度と,子による介護規範の影響が推測された.義理親に対しては男女とも関係良好度の影響が大きいと考えられる一方,長男の妻であることは介護意向を有意に高めることが示唆された.親との関係性が重要である一方,規範も効力を失っていないことがうかがえる結果となった.

  • 支援者とのやりとりの間にみられる解釈の相違
    染谷 莉奈子
    2023 年 20 巻 p. 195-213
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    本稿は,知的障害者の「自立生活」の事例を取り上げ,主たるケアラーとして家庭で子の生活を支えてきた「母親」に焦点を当てる.脱家族をスローガンの一つに発展してきた「自立生活」の経緯を踏まえ,既存研究では,家族の視点からは十分に考察されてこなかった.しかし,本人の意向がしばしば不明確であり,そのために長年,母親によってその意向が代弁されてきた知的障害者の場合には,親元を離れたとしても,母親の関与は完全に失われることは想定しにくい.したがって,本稿では,「自立生活」を開始した知的障害のある子をもつ母親に着目し,母親は,支援者との間でいかに解釈の相違を感受しているのかを明らかにした. 母親へのインタビューデータを分析した結果,支援者との解釈の相違は,「自立生活」以前からの連続線上で息子の生活を解釈しつづけているために生じているばかりではなく,「自立生活」以降も,息子の生活に「関わりつづけたい」と思う母親が,同時に「関わりつづける」つまり,支援者に「任せない」ことによる不利益を知る経験も重ねているからこそ感受されていることが解明された. 最後に,本稿は,母親と支援者との間で当事者と過ごしてきた期間が異なるために生じる,知的障害者の「自立生活」の問題を,ひいては,支援者が当事者の意思を汲んでいこうとするときに生じる継続性と断絶の問題へと繋がりうることを提示した.

  • 長谷川 拓人
    2023 年 20 巻 p. 215-236
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,離家はヤングケアラーにとってどのような意味を持つかを明らかにすることである.若者の離家については,家族社会学の分野で研究が蓄積されてきたが,こうした調査において,ヤングケアラーや若者ケアラーのようなケアを担う若者の存在は充分に想定されてこなかった.そこで,本稿では,実家を離れた元ヤングケアラー4 名に対するインタビュー調査を行い,ヤングケアラーの離家経験を分析した.  分析の結果から,家を出た後も家族のケアを続けている,あるいは,ケアを続けてはいないものの,そのことに対して罪悪感や不安などを抱えているヤングケアラーの状況が明らかになった.こうした分析結果を踏まえ,本稿では,離家という経験がヤングケアラーにもたらすのは,ケア負担の消滅ではなく,物理的距離の確保による「ケアの切り分け」と「ケアを要する家族のニーズ」との距離への気づきであることを論じた.ヤングケアラーにとって離家は,それまでの経験を整理し,自分と家族について相対化し考えていくために重要な行為となっていた.以上から,効果的なヤングケアラー支援を考えていく際には,ケア負担の軽減に加え,ヤングケアラーたちの離家を後押しする仕組み作りが重要になると主張した.

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