生活保護ケースワーカー(現業員)の人員不足はよく知られる一方で,福祉事務所の人員体制の詳細についてはほとんど実態が知られていない.自立支援プログラム以降(2005 〜),福祉事務所の「機能強化」「質の向上」という名目で数多くの非常勤職員・委託職員が配置されている.本稿ではこの福祉事務所の非正規化の進行を明らかにする.47 都道府県の市部福祉事務所(1,021か所)の人員体制に関わる行政資料を分析し,全国で 7,000 人を超える非常勤職員等が配置されている実態が明らかになった.次にケースワーカー(正規職員)の充足率と非正規化率に基づいて,全国の福祉事務所を「ハイブリッド型 /非正規代替型/人手不足型/正規中心型」の4類型化し,地域による傾向の差異を比較分析した. 以上の分析から生活保護において重用される「自立支援」や「適正化」という理念が,政策展開する上で供給主体(福祉事務所)の非正規化を招き寄せる構造を考察し(自立支援・適正化と非正規化の共犯関係),最後に生活保護ケースワーク論として有名な「統合・分離論争」に触れ,論争が見逃していた分離と統合の交錯が引き起こす官の拡大という事態を見通すため「複合体論」を提唱する.
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