2018 年 15 巻 p. 115-138
本稿では,「専業母」も利用できる保育・子育て支援として拡充が進められ
ている「一時保育」に焦点を当て,都市部で乳幼児の親を対象に実施した質問
紙調査から,母親規範意識との関連を中心に一時保育利用の規定要因を分析し
た.
その結果,一時保育の利用経験群は,非利用群に比べて,親族に託児を頼れ
ず,育児ストレスや夫の育児に対する不満が高く,高所得層が多いといった特
徴に加えて,三歳児神話を支持しながらも,親の都合で子どもを預けることに
肯定的な意識を持っているといった特徴が明らかになった.
また,利用経験群の中でも,特に「リフレッシュ利用」で一時保育を利用し
ている母親は,親都合の託児に抵抗感が少ない傾向がみられた.一方,非利用
群の大多数は夫や親族による託児サポートや保育所等の利用を理由に一時保育
の利用ニーズを持たないが,2 割未満ではあるものの制度利用に困難を抱えて
いる層や,託児への強い抵抗感から利用していない層もみられた.
「子育ての社会化」として,三歳児神話の否定の上に「専業母」の一時保育
利用が公に肯定され,制度の推進が図られている中で,三歳児神話は根強く支
持されたまま,一方では親都合による託児を肯定する意識が広がっているとい
う母親規範意識の複層性がみられた.「母親が子育て役割に専業すること」と
「母親が自分の都合のために子どもを預けること」は,併存可能な論理として
解釈されつつあることが示唆された.