2022 年 19 巻 p. 33-50
近年の福祉と教育との接近,さらに言えば貧困問題の解決策として学力向上
が強調される状況の背後には,戦後日本社会における公私分離のリベラリズム
秩序の不安定化がある.これまで安定して,教育と福祉を排他的に分担してき
た学校,家庭の二大エージェントの足元がいま揺らぎ,両者は支え合いの関係
以上に共倒れの危機に直面している.こうした構図の中で要請されるのは人間
の弱さや受苦性を基盤とした新たな福祉・教育哲学であり,学力/アチーブメ
ント概念もそれに基礎づけられねばならない.
以上の問題意識から本稿では,教育社会学等における従来までの学力概念の
問題点を明らかにした後,エーリッヒ・フロムおよびジョルジョ・アガンベン
の議論を手がかりに,学力/アチーブメント概念の転回につながる新たな福祉
・教育哲学の糸口を探った.フロムの徳としての力能や生産性,アガンベンの
非の潜勢力の概念はいずれも,受動性を基盤にしつつ,能力の形成や行使が人
間の幸福や倫理性につながることを示すものであった.