2022 年 19 巻 p. 71-88
わが国においては,近年になって,「分離率」の急速かつ一貫した上昇がみ
られる.わが国においては,障害のある子どもと障害のない子どもとの間には,
「学びの場」の分離と分断が進んでいるということになる.本稿においては,
その背景を,インクルーシブ教育を受けることが,「権利」として理解されて
いないことにあるのではないかと考え,締約国に対してインクルーシブ教育シ
ステムの確保を求める,障害者権利条約第24 条(教育)の条文と,2012 年の
中央教育審議会の報告の記述内容との乖離について,検討した.報告(2012)
においては,インクルーシブ教育システムが,障害のある人の「権利」である
という説明はなされておらず,報告(2012)は,そのような起点に立つもの
ではなかった.また,報告(2012)は,インクルーシブ教育システムを,目
指すべき「理念」とし,今後,「構築」されていくものとし,その「後送り」
をしているようでもあった.障害のない自身が「当たり前のもの」として享受
している「権利」というものの意味するものと相向かい,障害のある人と共に
学び,共に生活するインクルーシブ社会のあり方について考えていくことの必
要性を述べた.