福祉社会学研究
Online ISSN : 2186-6562
Print ISSN : 1349-3337
初期認知症高齢者の語り合いにおける相互作用過程
佐川 佳南枝
著者情報
ジャーナル フリー

2007 年 2007 巻 4 号 p. 120-143

詳細
抄録
本研究の目的は,在宅の初期認知症高齢者が自由な語り合いの場で彼ら自身の抱えている問題をどのように語っていくのか,また語り合う過程でどのようなことが起こってくるのかを明らかにすることである.重度認知症デイケアに通う7名を対象にグループ・インタビューを行い,何がどのように語られていくのか,内容と方法を分析した.まず自分たちの問題として語られたのは物忘れ,失敗体験,家庭内での疎外感役割喪失などであった.語り合いの中で他人の物語の中に自分との共通項を確認し,体験が共有化されていた.会話の中では「みんな一緒」と個人の体験が共通体験化されており,ある種の連帯感が生れていた.またそうした会話場面では,コンテクスト(文脈)が一瞬のうちに成員に把握されており,複数のコンテクストも正しく把握されていた.こうした過程からグループの中には共通の体験をベースにしたローカルな文化が形成されていると考えられた.また背景や意見の違う人々が話し合うという相互作用により自分の状況を多面的に判断するようになっていた.さらに家族や介護者側に対するクレームが表明され,問題に対する自分なりの対処方法を教えあうという情報交換も行われていた。ここには問題に対して能動的に対処しようとする初期認知症高齢者の姿が確認できた.
著者関連情報
© 福祉社会学会
前の記事 次の記事
feedback
Top