山階鳥類学雑誌
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原著論文
宮崎県枇榔島におけるカンムリウミスズメSynthliboramphus wumizusumeの孵化成功率と捕食
Darrell L. Whitworth Harry R. Carter中村 豊大槻 都子武石 全慈Kuniko Otsuki
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2020 年 52 巻 2 号 p. 63-82

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抄録

カンムリウミスズメSynthliboramphus wumizusumeの世界最大のコロニーである宮崎県枇榔島で2013年に営巣モニタリングが実施された.この研究の目的は,(1)多くの巣をモニタリングするための標準的なプロトコルを作成すること,(2)孵化成功,孵化の失敗,繁殖タイミングを調べること,(3)卵と成鳥の捕食について情報を得ること,であった.モニタリングは島上部の岩場,海岸部の洞穴,人工的な階段にある40巣で行われた.産卵のピークは3月の上旬であった(平均3月8日±7 SD,2月22日から3月31日,n=24).一腹卵数は平均1.84±0.37 SD(n=32)であった.30巣(77%)で孵化し,9巣(23%)が放棄され,1巣については孵化の成否は不明であった.モニタリングされた巣では,捕食が確認されたものや,卵が失われたものはなかった.放棄された9巣はすべて繁殖中の成鳥が捕食されたことにより,放棄されたものと考えられた.島上部と海岸線の生息地での調査中,卵が19個と成鳥が60–65羽,捕食されているのを確認した.ハヤブサFalco peregrinusとフクロウStrix uralensisも生息しており,おそらく成鳥を捕食しているのであろうが,今回捕食が確認された卵のすべてと成鳥のほとんどは,ハシボソガラスCorvus coroneとハシブトガラスC. macrorhynchosによるものであった.2013年の孵化成功率は,枇榔島や他のコロニーの数少ないデータと比較すると高めであった.本種のような脆弱な種をよりよく保護していくためには,繁殖の成功と捕食に影響を及ぼす要因についてより多くの情報が必要である.したがって,枇榔島や他の重要なコロニーにおいて長期間にわたる標準的なモニタリングプログラムを決定することが先決である.枇榔島での個体群動態,孵化成功,繁殖のタイミングをモニタリングする基本的なプロトコルには,(1)繁殖期を通じた毎年のモニタリング,(2)巣の確認をする間隔は5–10日間程度,(3)先に確認された巣だけをモニタリングするのではなく,個別のプロットですべての潜在的な巣を確認すること,を含むべきである.

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