2023 年 55 巻 2 号 p. 103-113
ミトコンドリアDNA(mtDNA)の塩基配列は,動物の系統解析に非常に適しているため,系統解析の標準的な手法として広く用いられてきた.現在では,分子生物学の技術的進歩により配列決定のコストが低下したため,ミトコンドリア全ゲノムを用いた解析が行われている.多くの鳥類でミトコンドリア全ゲノムがDNAデータバンクに登録されているが,登録されている種数は全鳥種に比べるとまだ少ない.遺伝的多様性の評価,保全管理単位の確立,絶滅のおそれのある隠蔽種の発見,再導入に適した系統の選択などに役立つmtDNAの塩基配列情報を収集することは重要である.私たちは,日本の絶滅危惧鳥類のサンプルを収集し,そのミトコンドリア全ゲノムを決定した.DNAは劣化して断片化していたため,より短い断片を増幅するための16種類のプライマーセットを設計した.LA Taqとこれらのプライマーセットを用いたPCRにより,mtDNAのコード領域(12S rRNAからチトクロムbまで)の16の断片が得られ,その配列を決定することができた.ND6遺伝子からコントロール領域までの領域については,先に決定したコーディング領域の両端に外向きのPCRプライマーを設計し,ロングPCRにより増幅した.本手法により,合計51サンプルのミトコンドリア全ゲノムが得られ,チトクロムbと12S rRNAの間の遺伝子配列に二型が見つかった。これらは系統学的分析の良いマーカーとなるだろう.この51サンプル中には12目27科49種が含まれ,そのうち46種/亜種が日本で絶滅の危機に瀕している.これらのデータは,鳥類の系統解析や保全生物学に貢献するものである.