山階鳥類研究所研究報告
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白山と乗鞍岳におけるイワヒバリの採食生態の比較
中村 雅彦上馬 康生
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1996 年 28 巻 1 号 p. 9-18

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抄録

1.1994年の6月と7月,白山と乗鞍岳の山頂部で繁殖するイワヒバリの餌場利用頻度,採食環境と残雪の上の昆虫量を比較した.
2.個体を捕獲し識別するため,ムキアワ,ムキヒエ,カナリアシードを餌に用いた餌場を白山に4ヵ所,乗鞍岳に5ヵ所設定した.
3.6月には,白山のイワヒバリは餌場をあまり利用せず,調査地の大部分を占める残雪の表面で昆虫を採食していた.乗鞍岳のイワヒバリは,餌場を頻繁に利用し,積雪していない岩場や高山荒原で採食していた.
4.7月には,残雪は減り,白山•乗鞍岳ともイワヒバリの主要な採食地はお花畑に移行した.
5.6月に残雪の上に設定した50×50cmの一方形区当たりの昆虫量は,白山が平均117.5個体,乗鞍が平均24.0個体と圧倒的に白山が多かった.これらの昆虫は生きていたが,雪の低温のため活動はにぶっていた.
6.7月には白山の残雪上で,一方形区当たり平均8.4個体の昆虫が,乗鞍岳では平均4.7個体の昆虫が死体で採集された.
7.残雪上の昆虫は,カメムシ目が最も多く,採集された全個体の79.7%を占め,カメムシ目の中ではアブラムシ科が全体の87.3%を占めた.残雪上の昆虫は,高山帯で発生したものではなく,低山や亜高山帯から上昇気流によって運ばれてきたものだった.
8.白山のイワヒバリが採食を餌場に依存しないのは,量が多く,発見や捕獲が容易な残雪上の昆虫を食べているためと考えた.
9.白山と乗鞍岳で依存する餌は違う.餌がイワヒバリの群れサイズ,なわばりサイズや繁殖開始時期に与える影響もまた各個体群で異なる可能性がある.

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