1998 年 30 巻 1 号 p. 53-56
一夫多妻の種では,さえずりがつがい形成後の配偶者防衛に役立っているという仮説がある。著者らはこの仮説が一夫多妻のコヨシキリAcrocephalus bisttrigicepsにおいても成り立つかどうかを確かめるために,1992年に埼玉県浦和市大久保の荒川左岸の河川敷内にある水田地帯で,コヨシキリのさえずり活動についての調査を行った。この年は調査地に6羽のオスが渡来し,なわばりを持った。著者らはそのうちの4羽のオスを追跡し,各繁殖ステージごとに1時間を10分ごとに6つの単位に区切って,10分ごとにオスが何秒間さえずっているかのデータを取った。その結果,コヨシキリのオスは繁殖地に渡来してメスを獲得するまではさかんにさえずっているが,メスが入ると途端にさえずらなくなることがわかった。造巣期,つまり受精の可能性が最も高い時期にはオスはほとんど鳴かずに,常にメスにつきまとって配偶者防衛をおこなっていた。コヨシキリでは配偶者防衛はさえずりではなく直接的な追随行動によっておこなわれ,一方,さえずりは主に複なわばりにおいてメスを獲得するためにおこなわれていることが明らかになった。