山階鳥類学雑誌
Online ISSN : 1882-0999
Print ISSN : 1348-5032
ISSN-L : 1348-5032
ジュウイチによるビンズイへの托卵例
森本 元田中 啓太上田 恵介
著者情報
ジャーナル フリー

2004 年 36 巻 1 号 p. 97-101

詳細
抄録

ジュウイチによるビンズイへの托卵を確認したので報告する。日本国内で繁殖する1属4種のカッコウ類の中でも,ジュウイチは分布がアジア圏に限られることや,その観察の困難さから,ほとんど研究がない。ジュウイチの主たる宿主はオオルリ,コルリ,ルリビタキであり,これらの宿主以外への托卵報告はきわめて少ない。ビンズイについても過去に富士山麓において1例の報告があるのみである。この希なビンズイへのジュウイチによる托卵を筆者らは富士山(35°22'N,138°46'E)の標高2,100mの地点においてルリビタキの調査中に確認•撮影に成功したので報告する。筆者らは調査地において2年間でルリビタキ87巣,メボソムシクイ9巣,ミソサザイ10巣,ビンズイ7巣を発見した。このうちジュウイチによる托卵は,ルリビタキ6巣,ビンズイ1巣で確認された。托卵されたビンズイは造巣開始後,産卵した。早朝観察時の巣内にはビンズイ卵1卵があったが,午後に再び巣内を確認するとビンズイの卵はなくなっており,ジュウイチの卵と思われる青緑色の卵が托卵されていた。その後,この巣は捕食されたため,それ以上の追跡はできなかった。日本国外ではジュウイチに似た青系の色の卵を産むカッコウとツツドリが知られているが,国内での報告はない。卵の大きさはカッコウ,ツツドリに比ベジュウイチは大きい。発見した卵の卵長は27.6mmであり,ジュウイチ卵の大きさに近かった。これらよりこの卵はジュウイチ卵であると考えられた。また,この卵以外のルリビタキへの托卵6例(発見時:雛1例,卵5例)では,卵はルリビタキ卵よりも大きな青緑色の卵であった。既に孵化していた1雛と破壊されていた2卵中の雛は,皮膚の色からジュウイチと確認できた。さらに,本調査地ではジュウイチ以外のカッコウ類の托卵が見つかっていないことも本観察がジュウイチ卵であることを支持している。

著者関連情報
© 財団法人 山階鳥類研究所
前の記事
feedback
Top