会計検査研究
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会計検査研究
独立行政法人制度改革の現状と課題 -独法会計に焦点を当てて-
東 信男
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2019 年 59 巻 p. 85-103

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抄録

 独立行政法人通則法の一部を改正する法律が2015年4月に施行され,独立行政法人制度の全般的な改革が行われた。この独法改革に伴い独法会計基準及び注解が2015年1月に改訂され,一部を除き2015年度から適用されている。

 独法会計については,先行研究において,①損益均衡の会計処理により損益計算書及び貸借対照表の理解可能性が低下していること,②運営費交付金の収益化において費用進行基準が採用されていること,③目的積立金が活用されていないこと,④セグメント情報の内容が国民負担に関する説明責任を履行していないこと,⑤発生主義会計情報が活用されていないことなどが指摘されている。

 今回の独法会計の改革によりこれらの課題が解決されたかどうか確認するため,2016 年度財務諸表によるデータ分析を行った。その結果,運営費交付金の収益化を除き,先行研究において指摘された課題が独法会計の改革後も依然として改善されていない現状が明らかになった。運営費交付金の収益化については,運用上も業務達成基準が原則採用されているが,利益が発生したとしても,その発生原因が過大に見積もられた費用なのか,或いは経営努力による費用の節減額なのか,識別することはできない。

 今回の独法会計の改革では,業務達成基準が採用されれば利益が計上されるようになるため,運営費交付金で賄う費用を節減したことによって生じた利益の一部を経営努力と認めることにより,効率化へのインセンティブが高まり,経営努力が一層促進されると期待されていた。しかし,業務達成基準を採用しても利益により経営成績を測定することは困難であることから,改革後も目的積立金の活用はそれほど改善されておらず,効率化へのインセンティブは高まっていない。独法会計の改革については,最終的な評価を下すのは時期尚早かもしれないが,現時点では,業務運営の効率化と業績の適正な評価に資する会計情報が提供されているとはいえない。

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© 2019 本論文著者
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