会計検査研究
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会計検査研究
  • 堀江 正之
    2024 年 70 巻 p. 5-14
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
  • 田口 方美
    2024 年 70 巻 p. 15-32
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

     ふるさと納税は,2008年度の税制改正で導入されてからその制度の是非も含めて様々な議論があり,プラスに評価されることもある一方で,制度の影響に関して批判されることも多い。本稿の目的はふるさと納税の効果について所得階級別,地域別に実証的な分析を行い,同制度の今後のあり方を検討する上で必要な材料を示すファクトファインディングを行うことである。

     ふるさと納税は,税負担の軽減をもたらし高所得者ほど有利な仕組みであると指摘されている。しかしながら,ふるさと納税の活用状況を所得階級別に検証する分析は行われておらず,高所得の納税者が多くの返礼品を受け取る構造に基づいた批判が多い。各納税者にとってのふるさと納税のメリットは,実質的に2,000円の負担でそれを超える返礼品を受け取ることである。寄附金であるふるさと納税の税額控除は,各納税者の税負担が他地域への納税に振り替えられるものであり,所得に対する課税(所得税・住民税所得割)の負担軽減をもたらすわけではない。その意味では,ふるさと納税を所得階級別に考察するにあたって重要な点は,所得階級による利用状況の違いである。そこで本稿では,ふるさと納税の利用がどれだけ高所得層に集中しているのかを求め,その経緯を検証した。分析結果からは,ふるさと納税は創設以降その利用が高所得層に集中していたこと,そして制度利用の拡大とともに,集中の度合いは弱まっていることが明らかになる。

     また,地域間の税収再分配の効果は,ミクロベースで自治体ごとの状況を把握する必要がある。大都市圏の自治体からは同制度による税収減というデメリットが主張されるが,経済力の強い地域から税収の少ない地域への再分配は当初のふるさと納税の目的にかなったものと見なすこともできる。本稿では,全ての市町村についてふるさと納税制度による財政収支への効果を測定した。その結果,1人当たり税収額の低い地域ほど同制度によるネットの効果がプラスになる傾向を示すことが明らかになった。

  • 布袋 正樹
    2024 年 70 巻 p. 33-57
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

     近年,資本金を1億円超から1億円以下に減資する著名な大企業が増えている。減資して資本金が1億円以下になると,企業は税制上の中小企業となり,法人税の軽減税率,欠損金の繰越控除限度額の特例,外形標準課税の対象外といった優遇措置を利用することができる。また,損失がある企業は,減資した資本金を繰越利益剰余金に振り替えることで損失を減らすことができる。こうした税制上及び会計上の利点が大企業の減資誘因になっていると考えられる。本研究では,『NEEDS-FinancialQUEST』に収録される一般事業法人(上場企業及び有価証券報告書を提出する非上場企業,以下ではこれを「上場企業等」と呼ぶ)のデータ(2007-2021年度)を用いて,上場企業等の減資行動を明らかにする。

     本研究で得られた分析結果は以下の通りである。第一に,上場企業等の減資は2016年度から緩やかに増加し,2020年度以降に急増した。減資タイプをみると,有償減資は非常に少なく,無償減資がほとんどを占めている。第二に,負の利益剰余金が大きな企業ほど損失処理減資を選択する傾向が強く,租税便益(税制上の中小企業になることで見込まれる節税額)が大きな企業ほど項目変更減資を選択する傾向が強い。租税便益が項目変更減資の選択を促す効果は,節税に対する評判費用が高い分析期間前半において有意ではないが,費用が低下した後半は正で有意となっている。第三に,分析期間後半に注目すると,まずは評判費用が相対的に低い非上場企業が租税便益に対する項目変更減資の感応度を高め,続いて費用が相対的に高い上場企業が感応度を高めている。第四に,2020年度以降に無償減資を実施した企業のうち,損失なしの企業は減資までに企業規模(総資産,従業員数,売上高)をほとんど変化させなかった。一方,損失ありの企業は減資までに企業規模を縮小させたが,非減資企業と大きく乖離することはなかった。これらの結果は,上場企業等が企業規模をそれほど縮小させずに中小企業向け優遇税制を利用していることを示す。

  • 濱秋 純哉
    2024 年 70 巻 p. 59-88
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

     1990年代後半から,各国税務当局はタックスヘイブンへの資産隠しなど海外取引を通じた脱税や租税回避への対処を進めてきた。その一つが,共通報告基準(CRS)と呼ばれる非居住者の金融資産情報を各国税務当局間で自動交換するための多国間ネットワークの構築である。いくつかの先行研究では,CRS導入後にタックスヘイブンに保有される非居住者の資産が有意に減少したことが報告されている。しかし,これがすべての国の居住者に当てはまるとは限らない。たとえば,CRS導入以前に行われたタックスヘイブン対策によって資産隠しが十分抑制されていた国や,資産課税の負担が軽く脱税のための資産隠しを行う誘因が弱い国などでは,CRSの影響は大きく推定されないはずである。そこで,本稿では国際決済銀行が公開している二国間クロスボーダー預金のパネルデータを用いて,CRS導入がタックスヘイブンで保有される各国居住者の預金に与えた影響について分析した。その結果,CRS導入が各国居住者のタックスヘイブンへの預金に与えた影響には異質性があることが分かった。具体的には,日本を含む複数の国でCRS導入後にタックスヘイブンへの預金が有意に減少した一方,EU加盟国などでは減少が見られなかった。また,資産課税の負担が重い国はそうでない国と比べてCRS導入後の預金の減少が有意に大きいことから,資産課税を免れるためにタックスヘイブンに隠されていた資産がCRS導入後に他国に移動したことが示唆された。

  • 荒井 耕
    2024 年 70 巻 p. 89-99
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

     病院以外の診療所等を対象とした新型コロナ流行による財務的影響を分析した研究は少なく,数少ない先行研究にも多くの限界がある。本稿では,すべての医療法人が提出する『事業報告書等』を活用して,非回答バイアスや少ない回答数による精度・信頼性の課題を解決しつつ,多角化状況などにより法人を13種類に類型化した上で,流行前,第1-2波,第3-5波という3つの流行環境下における多様な財務側面の推移を明らかにした。

     第1-2波の影響下にあった決算期には,どの類型も事業採算性が大きく悪化し,12類型では補助金を加えても流行前よりも悪化したままであった。しかし第3-5波の影響下にあった決算期には,医科診療所を代表する無床診附帯無型など6類型では,補助金による支援がなくとも事業採算性は既に流行前まで回復していた。そのため,第3-5波下でさらに浸透・増額された補助金を加えた場合には,12類型で流行前よりも採算性が向上し,10類型で流行前から1%pt以上も向上した。しかし第1-2波により拡大した各類型内での事業採算性の格差は,多くの類型において第3-5波下になっても縮小することなく,むしろさらに若干拡大した。また自己資本比率で見る財務健全性は,第1-2波により11類型で悪化したが,第3-5波下でも大きくは改善せず,その11類型すべてで流行前から悪化したままであった。さらに資産の利用効率性は,第1-2波により11類型で悪化し,第3-5波下でもそのうち10類型ではさらに悪化した。本稿は,将来の新たな感染症流行に際して,歴史的教訓を生かしつつ政策立案したりする上での知見を与えてくれるだろう。

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