ふるさと納税は,2008年度の税制改正で導入されてからその制度の是非も含めて様々な議論があり,プラスに評価されることもある一方で,制度の影響に関して批判されることも多い。本稿の目的はふるさと納税の効果について所得階級別,地域別に実証的な分析を行い,同制度の今後のあり方を検討する上で必要な材料を示すファクトファインディングを行うことである。
ふるさと納税は,税負担の軽減をもたらし高所得者ほど有利な仕組みであると指摘されている。しかしながら,ふるさと納税の活用状況を所得階級別に検証する分析は行われておらず,高所得の納税者が多くの返礼品を受け取る構造に基づいた批判が多い。各納税者にとってのふるさと納税のメリットは,実質的に2,000円の負担でそれを超える返礼品を受け取ることである。寄附金であるふるさと納税の税額控除は,各納税者の税負担が他地域への納税に振り替えられるものであり,所得に対する課税(所得税・住民税所得割)の負担軽減をもたらすわけではない。その意味では,ふるさと納税を所得階級別に考察するにあたって重要な点は,所得階級による利用状況の違いである。そこで本稿では,ふるさと納税の利用がどれだけ高所得層に集中しているのかを求め,その経緯を検証した。分析結果からは,ふるさと納税は創設以降その利用が高所得層に集中していたこと,そして制度利用の拡大とともに,集中の度合いは弱まっていることが明らかになる。
また,地域間の税収再分配の効果は,ミクロベースで自治体ごとの状況を把握する必要がある。大都市圏の自治体からは同制度による税収減というデメリットが主張されるが,経済力の強い地域から税収の少ない地域への再分配は当初のふるさと納税の目的にかなったものと見なすこともできる。本稿では,全ての市町村についてふるさと納税制度による財政収支への効果を測定した。その結果,1人当たり税収額の低い地域ほど同制度によるネットの効果がプラスになる傾向を示すことが明らかになった。
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