2019 年 60 巻 p. 43-58
我が国で国の行政機関の会計手続を規定している法律は会計法であり,同法の原則は経済性・公正性・透明性である。発注官庁は同法の原則に反しない限りにおいて公共調達に際して様々な政策的配慮を行う。この政策的配慮のうち,昨今,我が国ではイノベーションを促進するために公共調達を活用する方策が積極的に検討されている。一方で,諸外国に目を転じると,EU では公共調達に関わるEU 指令(Public Procurement Directives 2014/24/EU)においてイノベーションの促進に適した新たな調達手続が導入される等,より積極的にイノベーション促進に向けた公共調達の活用取組が進められている。
そこで,本稿では,直近のEU の取組としてEU 指令やイノベーション調達に関するガイドライン等を基に,EU においてイノベーション促進に適しているとされている調達手続(交渉手続及び競争的対話,デザインコンテスト,研究開発を経てイノベーションを促進する調達手続(商業化前の調達,イノベーションパートナーシップ))の概要や具体的な事例を示した。また,EUのイノベーション調達に近しい我が国の取組として内閣府の「オープンイノベーションチャレンジ」及び神戸市の「Urban Innovation Kobe」の取組概要を示した。このようなEU や我が国の取組及び先行研究を踏まえて,我が国のイノベーション促進に向けて公共調達を活用する際の調達手続上の課題は次の3 点であろう。第一に,更なるイノベーション調達の取組推進を目指すならば,取組事例の共有や調達手続に関するガイドラインの継続的な更新及び分析の充実が必要である。第二に,調達手続において重視する価値の明確化が必要である(EU のように競争性を重視するか,米国のように研究助成的な意味合いを重視するのか等)。第三に,イノベーション調達が研究開発を含む場合,研究開発に支払われる金額の明確化も重要である(公的機関と事業者の間のリスクと便益を踏まえて対価を検討する等)。