会計検査研究
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会計検査研究
議会の監視機能に着目した公会計情報活用の考察
-与野党会派別の議事に係るテキストマイニング-
横田 慎一
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2022 年 66 巻 p. 29-46

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抄録

 本研究では,町田市議会の決算審査議事録をもとに,与党会派議員の発言と野党会派議員の発言を比較分析することによって,費用対効果に係わる公会計情報の活用は与党会派議員による活用が中心であることを明らかにし,そして,地方議員,特に野党会派議員による公会計情報の活用に係る課題を検討する。

 本研究の仮説には,与党会派議員と比べて野党会派議員は,公会計情報の情報探索コストが高く,情報探索が十分に行えないため,費用対効果に係る公会計情報をより活用できていないという情報探索コスト仮説を設定した。

 費用対効果に係る議論が与党会派議員を中心に行われている可能性についてテキストマイニングの一手法であるコロケーション統計による分析を行った結果,次のことが明らかとなった。

 つまり,与党会派議員は「コスト」の前後に「効果」という語が発言され,具体的には「費用(コスト)対効果」の発言頻度が高く,その一方で,野党会派議員は「コスト」の前後に「負担」という語を発することが多いことが示された。具体的な議事内容としては,与党会派議員から,費用対効果を考慮しながらの事業遂行を促す発言や費用対効果の検証の重要性を確認する発言など公会計情報を好意的に活用した議論が見られた。ただし,一部の自由民主党議員からは費用対効果を重視した執行機関側による行動について疑問を呈する発言が見られたように,与党会派議員であっても議員側が必ずしも費用対効果に係る公会計情報を利用したがるとは限らないことが分かった。

 今後,より議会の監視機能が期待される野党会派議員が公会計情報を活用し,事業の費用対効果に係る施策や事業の議論をより行うためには,公会計情報の探索コストの低減が課題であり,Jorge, Jesus et al. (2019)が主張するような議会アドバイザーの設置やHydman(2016)が主張するような公会計情報の簡素化など公会計情報の入手や理解を手助けする仕組みが必要になると考えられる。

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© 2022 本論文著者
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