海の研究
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原著論文
アルゴデータの圧力バイアス問題とその影響
小林 大洋 中村 知朗湊 信也四竃 信行
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2009 年 18 巻 6 号 p. 351-391

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抄録

アルゴによる全球海洋観測網の整備が進み,海洋の貯熱量変化やそれに伴う海面上昇の精密な議論が可能となった。その結果,一部のアルゴフロートで観測された圧力データにバイアスが含まれること,あるいはその可能性が指摘されている。海洋研究開発機構は,気象庁と協力し,率先してこの問題に取り組んできた。国際アルゴでの調査の結果,この圧力バイアスはハードウェアとソフトウェアの様々な要因が複合的に作用した結果であり,特に地上局でのデータ処理過程で生じる人為的な要因が予想以上に深刻であることが明らかとなった。本稿は2009年3月末現在における既知の圧力バイアスの詳細とその発生原因を解説するとともに,国際アルゴにおけるこの問題への対応や,データ補正作業の現状を説明する。また,アルゴ以前のフロートデータに含まれうる圧力バイアスにも触れる。海洋貯熱量変化や海面上昇に関する研究結果をふまえると,フ口一トによる圧力観測は,系統誤差を取り除くことを第一とし,その上でランダムな観測誤差を±5 dbarの範囲に収めることを当面の目標とすべきである。これにより,全球海洋貯熱量は約±0.5x1022 J, Steric Heightは約±3 mmの精度で推定できることになる。現在,アルゴデータを含む海洋観測データから推定されるSteric Heightの上昇量と衛星観測によって推定される海面高度の上昇量の時空間的な不一致が指摘されているが,これはアルゴデータの圧力バイアスの補正を適切に行うことにより減少する傾向にあり,今後の詳細な検討が待たれる。

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© 2009 日本海洋学会
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