日本海の表層型メタンハイドレート開発における環境影響評価に係る技術開発の一環として,これまでほとんど例のない深海底生性ヨコエビの生存状態での捕獲と長期飼育を試みた。回収時に閉鎖状態で現場の海水を保持できるベイトトラップを製作し,水深約1,000 mの海底からヨコエビ(Pseudorchomene sp.)の捕獲に成功した。捕獲個体は,船上で大気に曝さず直ちに水温1-2 ℃の海水に収容したところ活発に遊泳し,陸上の実験室に冷蔵状態で輸送後も生存し続けた。飼育は複数容器で行い,10-20日間隔で給餌した。脱皮間隔は86±6日であり,死亡個体あるいは個体数減少は脱皮後に見られ,容器内に1個体となってからは最長548日間生存した。無給餌では最長141日間生存した。個体数の減耗の要因は,脱皮不全あるいは脱皮した際の共食いのみと考えられた。本種は健全性を保った状態で飼育可能であり,毒性試験等の環境影響実験に利用できることが示唆された。
過去30年間における海洋学のブレークスルーの1つは,鉄(Fe)が微量栄養素として植物プランクトン増殖を制御していることが発見されたことである。それにより,海洋におけるFeの役割およびその生物地球化学的動態に関する理解が飛躍的に進んだ。本総説では,北太平洋亜寒帯域におけるFeが一次生産に果たす役割と,北方圏縁辺海を含む自然界のFeや栄養塩の供給プロセスについて,これまで分かってきた知見がどのように積み上げられてきたのかを,世界的な研究動向と比較しながら,我が国で実施されてきたプロジェクトを中心に振り返る。