日本海洋学会誌
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Sagitta crassaの形態変化についで
弘田 礼一郎
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1959 年 15 巻 4 号 p. 191-202

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抄録
(1) 1954年11月から1958年3月にかけて毎月2~3回向島臨海実験所沖の1stationで, 1954年12月16日, 1955年1月19日および2月17日の3回向島近海の20stationsで, また1955年11月から1956年10月にかけてほぼ毎月1回向島近海の6stationsで採集されたS. crassaについて, 泡状組織の分布程度にもとずいた季節的な変異を述べ, さらにこの変異を誘起する重要な要因として認められた水温および塩素量について考察した.
(2) S. crassaの泡状組織は, その分布程度によりA, B, C, Dの4段階に区別した (Fig. 2参照).
(3) 向島近海で採集されるS. crassaには年3回 (2~3月, 5~7月, 11~12月) の主産卵期があり, 3回の世代の交代を行つている. このうち5~7月および11~12月に主産卵期をもつ二つの世代においては, 泡状組織は殆んどすべての個体で頸部にのみ分布するD段階であるが, 稀に僅かに増大して程度の低いC段階に達することもある. 2~3月に主産卵期をもつ世代においては, 順次C, B, Aの各段階に至る著しい泡状組織の増大が認められるが, その増大の程度は, 棲息海域の水温や塩素量によつて左右される.
(4) 泡状組織の増大には水温が重大な影響をもち, 泡状組織がA段階まで増大した個体の出現は水温が11℃以下, B段階の個体の出現は11.5℃以下に低下する冬期のみに限られ, さらにいずれも水温の低下が9.5℃以下に達した場合にその出現数が極めて多くなる. 泡状組織がC段階の個体も主として冬期に出現するが, これは稀に20℃以上の高温でも出現することがある. しかしその出現数が多くなるのはやはり水温が11.5℃以下に低下した場合である.
(5) 塩素量もまた泡状組織の増大に密接な関係を有する. すなわちA段階への増大は塩素量が17.5~17.8‰, B段階への増大は17.4~18.1‰, C段階への増大は17.4~18.6‰の範囲にある時に主として進行する.
(6) このようにS. crassaにおける泡状組織の増大が起るためには, 棲息海域の水温および塩素量が一定の範囲にあることが必要である. いずれの場合も泡状組織の増大の程度が低い程その範囲が広く, 増大の程度が進むにつれて特定の範囲に限定されるようになる.
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