抄録
黒潮の沿岸よりの流れが紀伊半島に当たることで発生する振り分け潮について,水平解像度1/18度の高解像海洋循環モデルを使って研究した。1997年のモデル再現実験データを観測結果と比較して,以下の結果を得た。紀南海域の平均的な水位分布は,振り分け潮による沿岸の低気圧性渦に伴うものであるが,モデルの年平均値は,この水位の平均描像を再現できない。しかし,個々のイベントについては平均描像と酷似した水位分布を再現できる。これは,モデルでは振り分け潮の発生頻度は10%ほどであるが,観測では70%の高頻度を示すためである。さらに流速場の時間変化図から,紀伊水道沖を高,低気圧渦が通過することによって励起される黒潮流軸の変動が振り分け潮の発生の引き金となることが分かった。振り分け潮は一連の高,低気圧性擾乱の通過による急激なトルクの作用によって紀伊半島に向かう黒潮の入射角が増加した後に発生すると考えられる。