抄録
観測データから明らかにされた黒潮の流路・流量変動についてまとめた。九州南のトカラ海峡では,黒潮大蛇行の形成と消滅の約4か月前に,黒潮がそれぞれ北方と南方に変位する。その後の形成・消滅過程とそれらを除いた大蛇行・非大蛇行の四つの期間での黒潮の特徴を整理した。大蛇行と非大蛇行では,トカラ海峡での黒潮流軸の位置と形状と鉛直方向の傾きが異なる。非大蛇行の黒潮は,九州と四国の岸に沿って流れ,紀伊半島南端の潮岬で急激な加速等の変化を起こし,その変化の大小に対応して非大蛇行接岸流路と離岸流路をとる。伊豆海嶺では,中層以深の黒潮が,三宅島・八丈島間の峡谷か八丈島南方の深海域しか通れないため,黒潮の代表的流路は,前者を通る典型的大蛇行流路と非大蛇行接岸流路,後者を通る非大蛇行離岸流路の三つに集約される。これらの流路間の遷移について,変化の特徴や流速・流量との関係をまとめた。また,大蛇行と非大蛇行のイベントによる違いを整理し,大蛇行の形成機構等について議論した。