抄録
NaOHを用いたアルカリ処理は,リグノセルロースの酵素糖化前処理としてよく用いられる.本研究では,その前段に緩和なアルカリ前処理を適用し,事前に有用成分を抽出することにより,バガス成分の総合利用を目指した.1 M NaOHを用いた常温アルカリ処理により,p-クマル酸,フェルラ酸,ヘミセルロース,リグニンが溶出し,82 h処理におけるヘミセルロース,リグニンの抽出率は約60%に達した.得られた残渣に対して105°C, 1 M NaOH処理を行ったところ,単に105°Cでアルカリ処理したときより,残渣のリグニン含有率が低下し,セルロース含有率が向上した.ここで得られた残渣に対してさらに170°CのNaOH処理を行ったところ,蒸解助剤を使わずして,含有率94%のセルロース系素材を得ることに成功した.これは多段階にリグニンを溶出,反応系から除去したことにより,リグニン分子間の縮合が抑制されたことによると考えられる.常温アルカリ前処理は,続くアルカリ処理の脱リグニンを促進し,かつ,加水分解や熱変性を伴わずに,芳香族カルボン酸,アラビノキシラン,リグニンを得ることができる効果的なプロセスである.