本研究では,近赤外領域の吸収を持たせた有機色素をナノカプセル化し,偽造防止インクとして用いることに着目している.ナノカプセル化することによって,たとえばインクジェットインクの分散媒体に使用される水への分散能を持たせ,安定な分散を可能にする.また,偽造防止インクの透明性を維持するためにナノカプセルの粒子径は可視光を透過するための十分な大きさにする必要がある.本研究では,液中乾燥法を用いてナノカプセルを調製し,粒子径の制御について検討した.有機相にモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween80)を1.5 wt%以上添加することによって,平均粒子径が100 nmのナノカプセルを得ることができた.
本研究では,半導体パッケージ封止剤用途への展開を目的とし,単官能の1,4-ブタンジオール型エポキシ樹脂(BDO-Ep)およびポリテトラヒドロフラン型エポキシ樹脂(PTHF-Ep)と2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)との反応メカニズムおよび重合性を検証した.併せてこれら樹脂とグリシジルフェニルエーテル(GPE)との共重合性についても検討した.BDO-Ep, PTHF-EpおよびGPEそれぞれに2E4MZを10 phr添加した混合物の反応追跡の結果,BDO-EpとGPEはエポキシ基の開環にともない重合が進行したが,PTHF-Epは反応時間にともないエポキシ基は開環するものの,分子量の大幅な増加は見られなかった.PTHF-Epに対し2E4MZが過剰量であったことを考慮し,添加量を2 phrに減量し,加えて反応温度の高温化による影響を検討した.10 phrより反応速度は遅くなったが,120°C, 150°Cにおいて,時間にともなって開環反応が進行し,数平均分子量Mnが若干増加した.また150°C/12 h, 180°C/12 hの反応により,SECクロマトグラムの高分子量側がややブロードとなり,120°C/12 hより重合が進行した傾向が観られた.最後にPTHF-Epと反応速度が速いGPEを併用した混合物での120°C, 150°C, 180°Cにおける反応性を追跡した結果,反応温度にかかわらずGPEの開環が優先的に進むことがわかった.反応速度は遅れるものの,PTHF-Epも徐々に開環が進行していた.また,120°C, 150°Cでは120 min反応後も重量平均分子量Mwは2000程度,分子量分布Mw/Mnは1.5以下であるのに対し,180°Cでは120 minの反応によりMwが約7000, Mw/Mnが4.8に増加しており,一部のPTHF-Epが重合していることが示唆された.
本研究では,超臨界二酸化炭素(CO2)を用いたテンプレート剤抽出法(超臨界CO2法)によってメソポーラスシリカMCM-41およびSBA-15を作製した.超臨界CO2法を用いた場合,MCM-41においてテンプレート剤の抽出率は97.8%に達し,従来法である焼成法と比べ高比表面積,高細孔容積,均一細孔径を持つメソポーラスシリカが得られた.SBA-15に関しては,超臨界CO2法によるテンプレート抽出率が88%に留まったが,焼成法と比較して細孔径分布の均一性を維持する点で超臨界CO2法が優れていた.さらに,超臨界CO2法におけるテンプレート剤抽出率の圧力依存性を調査した結果,抽出率が8 MPaから10 MPa付近で極大を示すことが明らかとなり,これはCO2とメタノール系の気液平衡関係の観点から解釈可能であった.以上の結果より,超臨界CO2法は細孔構造の維持および高性能なメソポーラスシリカMCM-41およびSBA-15の作製において,従来法と比べて有効な手法であることが示唆された.
本報では,機械学習のベイズ最適化(BO)を利用して,単純コアセルベーション法によって100 µmから200 µmの粒子径を有するマイクロカプセルを調製するための実験条件最適化の効率化を目指した.コアセルベーションカプセルはマイクロカプセル調製法として広く利用されているが,目的とする物性を有するカプセルを調製するためには,多数ある実験条件(パラメーター)を最適化しなければならず,その省力化対策は重要である.そこで,パラメーターの最適化をベイズ最適化によって行った.パラメーターとしては温度,カプセル壁の構成成分である高分子(ゼラチン)の濃度,高分子の相分離誘起材(硫酸ナトリウム)水溶液の滴下量,硫酸ナトリウム水溶液滴下速度を採用した.異なる7種の条件により得られたトレーニングデータでは,目的の粒子径を有するカプセルの割合は0–21±3%であったが,わずか4回のBO操作により,その割合を34%まで向上できた.このようにBOは,単純コアセルベーション法によって目的の粒子径を有するマイクロカプセルを調製するための効率的なパラメーター最適化法として有用であった.
木粉に水溶性セルロース誘導体と助剤を添加して湿式押出した後に乾燥させたオールバイオマス材料は,プラスチック製品の代替材料として注目されている.しかしながら,乾燥による材料の収縮や変形,表面の硬化などが課題となっている.本研究では,オールバイオマス湿式押出成形品の乾燥に対し,熱移動に優れた赤外線と物質移動に優れた送風を組み合わせた赤外線–送風併用乾燥を適用した.その結果,試料中心温度が363 Kに到達した時点で適切に赤外線–送風併用乾燥条件を変更することにより,最大41%の乾燥時間短縮と最大38%のエネルギー消費量の削減を実現し,高効率な乾燥プロセスを確立することができた.また,本方法で乾燥されたオールバイオマス材料は,表面の膨化や焦げが認められず,乾燥工程における収縮と変形が抑制されることが実験的に示された.さらに,近赤外分光画像解析により乾燥後の材料の化学的特性を検討したところ,成分組成の変化が抑制され,その分布も均一であることが確認できた.