1988 年 36 巻 3 号 p. 258-260
天然色素には自然に学び, 自然を超えるという化学者の夢を語る側面がある。ものを染める色素の歴史は古く, 天然物に色素源を求めた。有機化学が進歩するとともに, 天然色素の分解, 分析によって化学構造の解明と化学合成へと進み, 鮮明度, 着色力, 堅牢度, 染着性など天然色素の性能をしのぐ多彩な合成染料が数多く開発された。これによって, その昔, 王候の座でしか許されなかった優雅な色彩さえも我々の身近なものとした。さらに, 色素の発色・消色メカニズムの解明, 理論づけとともに, 色素に秘められたさまざまな機能を発掘し, 先端技術に基づく機能性色素への展開を契機に, この分野は再び世の熱い視線を浴びるに至った。