備前焼は釉薬を施さない「無釉焼き締め陶」であるが,登り窯で焼成した作品の表面には様々な色彩が現れる。備前焼を代表する特徴的な赤色模様の緋襷は,備前粘土と稲わらに含まれるカリウムが反応して現れる。赤色の要因である酸化鉄(III)の生成メカニズム,雰囲気による色彩の変化および伝統技術の応用について紹介する。
貴金属ナノ粒子は,バルク状態とは異なる独特の光学特性を示し,その代表例が局在表面プラズモン共鳴(LSPR)である。本稿では,LSPRによる発色現象とその歴史的・科学的背景を概説し,特に江戸切子における金ナノコロイドの役割に焦点を当てる。江戸切子は19世紀初頭に発展した日本の伝統工芸であり,色被せガラスをカットすることで複雑な光学効果を生み出す。金ナノ粒子が分散したガラスは,ナノ粒子のサイズや形状によって可視光の特定波長を吸収・散乱し,鮮やかな色彩を呈する。さらに,カット構造が光の干渉や偏光特性を変化させ,多様な発色をもたらす。これらの特性は,LSPRの基本原理に基づき,光学デバイスやバイオセンシングなどの応用にもつながる。本稿では,江戸切子におけるナノ粒子の光学的役割を解説し,その科学的展望について述べる。
フランス人がフランスだけでなく日本でも鉄の考古学を学び,古代・中世の日本とヨーロッパの鉄の歴史について語り,たたら吹き製鉄法の考古学的研究に欠かせない存在となった化学的分析の重要さについても述べる。また,現在行っている古代・中世日本における製鉄炉の炉壁の研究と化学と実験の関連性も紹介する。
分子の構造中にある単結合でつながった2つの部位は,その部位が十分に小さければ単結合を軸にして自由に回転できる。しかし,複数のかさ高い部位が近接して導入されると,それらの回転は立体的な制約を受け,それぞれの配座が互いに連動するようになる。これにより,分子全体の配座が制限されることがある。本稿では,このような配座の協同性がもたらす構造的・物性的特徴について,有機分子や分子集合体の具体例を通じて解説し,凝集誘起発光のような応用例まで紹介する。
キラル分子は,右手型と左手型で異なる性質を示すことから,両者を分離する研究や作り分ける研究が長年活発に行われてきた。一方,右手分子と左手分子は,立体的に相補的であるため,結晶や超分子を形成する際に両者が交互に並びやすい性質もある。この性質を利用することで,右手型と左手型で構造の一部が異なる分子であっても交互に並べることができ,これを活かした新たな機能性材料の開発が期待されている。
キラルな化合物は,不斉炭素原子を持つ分子以外にも存在する。本稿では,不斉炭素原子以外の芳香環の立体障害に起因する分子のねじれが生み出すキラリティーについて論じる。古くから知られる軸不斉や面不斉化合物に加え,最先端の有機合成技術によって創出された美しい構造を持つキラル分子も取り上げる。また,これらのキラル化合物の利用法や光学特性についても併せて述べる。