多数の分子が集合して形成されるコロイド粒子は,分子間に働く引力によって,分子同士が分離せず粒子としてのまとまりを維持する。しかし,この分子間引力により,粒子の表面は高エネルギー状態となり,コロイド粒子の挙動に大きな影響を与える。特に,多数のコロイド粒子が存在する場合,粒子同士が凝集しやすく,安定したコロイド分散系を維持するためには適切な工夫が求められる。本稿では,分子間引力に起因するコロイド粒子の化学について解説する。
高分子は,その繰り返し単位(単量体)が多数結合することで形成される。その性質は,単量体の性質,分子が直線的か分岐があるかなどの形状,共重合体の化学組成(単量体の構成割合),分子量とその分布等に依存し,分子の集合様式としての高次な構造(結晶,非晶,分子の配向等)の影響を受ける。本稿では,高等学校の教科書に取り上げられている高分子を中心にできるだけ深く平易に構造と物性の相関について解説する。
サリチル酸系解熱鎮痛薬とアニリン系解熱鎮痛薬は市販薬として多く流通しており,その構造式は高校生にも理解しやすい。そのため,アニリン系解熱鎮痛薬とも関係するアセトアニリドの実験室的合成は,学生実験のテーマとして歴史的に重要である。しかしながら,高校化学の教科書ではアセトアニリドの構造式が掲載されているものの,アセトアニリドを合成する実験を行うことは少ないように思われる。そこで,解熱鎮痛薬の歴史を概観するとともに,古典的なアセトアニリド合成実験の実践例を紹介する。
化学は,「物質の解明」と「人間社会への貢献」という2つの目的を持つとされる。ならば文化財を対象とした化学は,「文化財の解明」と「文化財(を通じた人間社会)への貢献」という2つの方向性を持つと言えるが,後者は主として文化財の保存修復に寄与する形で実現される。また,文化財の価値を解明して人々の理解を得ることはその文化財を守ることにも繋がるため,いずれの方向性も究極的には文化財の保存に寄与するという視点を持つことが必要である。
文化財の修復に関係する材料の多くは有機材料である。本稿では,有機化学を背景に,日本で東洋絵画の修復に用いる古糊,文化財そのものにもその修復にも用いられる絹,そして染織品・民具・絵画などに用いられている多様な植物由来の自然布についての研究を解説する。