2008 年 56 巻 2 号 p. 56-59
「超分子化学」という言葉が化学研究の第一線で語られるようになったのは20世紀第4四半期に入ってからであるが,分子認識概念と同じように,その基本概念は既に19世紀前半の化学の中に見られていた。その始まりは無機「分子」と有機分子との錯塩であるツァイゼ塩K[PtCl_3(C_2H_4)]・H_2Oが発見された1827年に遡ることができる。それから150年の間の,主として小形分子を扱う分子化学の研究成果が,超分子と分子認識の化学における全く新しい発展を可能にした。その歴史的経緯から,人間の業(わざ)としての化学研究の綾を観照してみよう。