2012 年 60 巻 8 号 p. 336-339
水素は次世代のエネルギーとして期待されており,その貯蔵媒体として水素吸蔵合金はほぼ半世紀近く注目され続けている。元素と水素の化学結合性は両者の電気陰性度と関係している。周期表上で元素が左から右へ移るにつれ,その水素化物の結合性はイオン結合性から金属結合性,そして共有結合性へと変化する。パラジウムは多量の水素を吸蔵することで古くから知られている。パラジウムと水素の相性が良いのは,両者の電気陰性度がほぼ同じであることに起因している。したがって,パラジウムと水素は,両者の電子軌道間の相互作用が大きく,エネルギー的に安定な合金を形成している。Pd-H間の化学結合は金属結合であり,PdHはパラジウムと水素の合金である。パラジウムに特徴的な水素吸蔵能は,その電子状態と密接に関係していると言える。では,周期表上でパラジウムの両隣に位置する元素を混ぜるとどうなるのだろうか?パラジウムのような物質はつくれるのだろうか?本稿では,金属と水素の化学結合性を基礎として,周期表における希少金属代替の元素戦略について解説をする。