1997 年 48 巻 2 号 p. 211-216
症例は26歳の女性で不妊を主訴に当院初診す。排卵障害に対しクロミフェンを投与したところ両側卵巣が多嚢胞性に腫大し, 下腹部痛を訴えたため卵巣過剰刺激症候群と診断す。クロミフェンの再投与は困難と判断し同日より温経湯の単独投与に切り替えたところ基礎体温が二相性となり, その後妊娠成立し, ●●●●●●●●●●妊娠39週0日で正常分娩した。温経湯は月経異常の女性や, 排卵障害を有する不妊婦人に投与され有効であったとする報告が多い。他方近年の不妊治療に於いて排卵誘発剤は欠かす事のできない治療法の一つとなっているがその副作用として卵巣過剰刺激症候群が社会問題となっている。一般にはHMG-HCG製剤投与での報告が多いが, クロミフェン投与でも約3%に本症が発症するとの報告も見られる。今回の症例は温経湯の持続的投与によりこの副作用を防止し月経周期を正順化し妊娠, 出産に至った点で意義が大きい。