本研究は,『金匱要略』の脈論を検討し,その理論的および臨床的意義を明らかにすることを目的とした。『傷寒論』が六経病に基づいて体系的にまとめられているのに対し,『金匱要略』は雑病を扱っており,統一された理論体系が見出しがたく,『傷寒論』に比べて研究が進んでいない。その傾向は脈論において特に顕著である。『金匱要略』の脈論が十分に研究されてこなかった理由として,体系的な理論が存在しないこと,後人の竄入が多いとされていることが挙げられる。しかし,『金匱要略』の脈論は『脈経』や三部九候診と共通点があり,その重要性を無視することはできない。本研究では,『金匱要略』の脈論を詳細に分析し,脈状と病理,病証を結びつける形式を明らかにした。さらに,外感内傷論に基づき,2つの並列,対立する脈を通じて病の伝変を論じる方法を採用していることが示された。
反復する膀胱炎に対して抗菌薬投与を繰り返した結果,多剤耐性大腸菌を検出した難治性膀胱炎患者に対して,心腎不交症と考え清心蓮子飲を投与して著効し,頻繁な抗菌薬投与を回避できた2症例を経験した。症例1は70歳女性。18年前から膀胱炎を発症し頻繁に繰り返すようになり,頻繁な抗菌薬治療のため起炎菌の大腸菌は多剤耐性化していた。弁証論治に基づいて心腎不交の証と診断し清心蓮子飲を開始後,11ヵ月間膀胱炎を起こさず経過し,再発時には多剤耐性大腸菌を検出しなかった。症例2は79歳女性。5年前から膀胱炎症状を発症して頻度が増加し,度重なる抗菌薬加療のため多剤耐性大腸菌を検出していた。心腎不交の証を認めたため清心蓮子飲を投与後,11ヵ月間膀胱炎の再発なく経過した。いずれの症例も,清心蓮子飲で心腎の交通を図り健脾補気することで膀胱炎症状を反復しなくなった。漢方薬が感染症治療に寄与することが示唆された。
夜間に著明に増悪する肩関節痛を訴えて当科を受診した中高年女性3症例に,単純 X 線検査で肩関節周囲の石灰沈着を認め石灰沈着性腱板炎と診断し,桂枝芍薬知母湯を投与した後に短期間で症状が軽快した。さらに,そのうち2症例においては石灰化の消失を確認できた。石灰沈着性腱板炎については有効な西洋医学的治療法が多く存在するが,漢方治療もよい選択肢になりうると考えた。
長期的な尿道カテーテル留置の症例の約半数は尿道カテーテル閉塞を経験するとされている。尿道カテーテル閉塞は尿路感染症のリスクを増大させ,カテーテルの交換や洗浄に疼痛や違和感を伴うことから,生活の質を低下させる要因となりうるが,明らかな治療法がない。今回,我々は繰り返す尿道カテーテル閉塞を来す3症例に対して漢方治療を試みた。いずれも高齢男性であり,脳血管障害の後遺症や廃用症候群の一症状として排尿障害を認め,尿道カテーテルの長期留置が必要であったが,頻回の尿道カテーテル閉塞を認めた。3症例のうち,2症例では猪苓湯エキスの少量投与が奏効した。尿道カテーテル閉塞時に発熱を認める残りの1症例では少量の猪苓湯エキスでは奏効せず,竜胆瀉肝湯(一貫堂)エキスに変更し,尿道カテーテル閉塞の頻度の減少を認めた。
繰り返す尿道カテーテル閉塞に対して,漢方治療が奏効する可能性が示唆された。
半夏白朮天麻湯で肩こりが改善した3症例を経験した。症例1は肩こり,眼痛を訴える23歳女性。全身倦怠感,胃もたれがあり,乗り物酔いのような気持ち悪さが常にあることから,気虚,脾虚と痰飲があると判断し,半夏白朮天麻湯を処方したところ,いずれも改善が見られた。症例2は肩こり,頭痛,げっぷを訴える43歳女性。全身倦怠感,腹のはりがあり,車に乗ると悪化することから,同様に気虚,脾虚と痰飲があると判断。半夏白朮天麻湯の処方で症状はすべて改善した。症例3は肩こり,眼痛,頭痛,ふらつきを訴える80歳女性。全身倦怠感,腸閉塞術後の腹部のはりや下痢傾向もあるため,これも気虚,脾虚と痰飲があると見て半夏白朮天麻湯を処方したところ,いずれも軽快した。半夏白朮天麻湯の主な使用目標とされている「めまい」を伴わない場合でも,気虚,脾虚と痰飲の症状を伴う肩こりは「痰厥」の可能性があり,本剤が有効な場合があると考えられた。
口腔乾燥症の患者数は約800万人と推測され1),更年期以降の女性に多い。原因は,シェーグレン症候群,放射線治療の後遺症,ストレス,加齢,薬剤性,更年期症状など多岐にわたる。口腔乾燥症を伴う舌痛症で内科・耳鼻科・歯科で精査加療したが改善せず,漢方薬が有効であった更年期女性の症例を経験した。
症例は50歳代女性。主訴は口腔乾燥,舌痛。麦門冬湯は無効であった。黄膩苔が見られ,湿熱による口腔乾燥症,舌痛症と診断し,茵蔯五苓散を投与したところ,痛みのスコア numerical rating scale(NRS)8から1,舌所見は黄膩苔から微黄膩苔に改善した。その後,症状が再燃し NRS 7,黄膩苔に変化した。白虎加人参湯を追加したが NRS 3~7までしか改善せず,黄連解毒湯,四物湯に変更したところ,NRS 0~1,舌所見も改善した。舌診は効果判定に有用であった。更年期女性の口腔乾燥を伴う舌痛症に茵蔯五苓散,黄連解毒湯,四物湯が有効であった初めての報告である。
症例は16歳女性。先天性の直腸肛門・泌尿生殖奇形である総排泄腔外反症のため,新生児期に人工肛門造設,学童期に腸管代用膀胱・導尿路を作成した。また,重複子宮・左膣欠損のため,13歳での初経後,経血路の確保に難渋し,14歳時に左子宮付属器摘出術を施行した。その後月経困難症が持続し,15歳時に偽閉経療法が開始となったが,ホルモン治療に伴う顔面のほてり・発汗が出現し,また数年来周期的な腹痛があり,加療目的に当科紹介となった。顔面のほてりや腹部症状を瘀血に起因する気逆と考え,折衝飲加茯苓白朮を処方した。症状は,治療開始後より軽減を認め始め,治療開始3年6ヵ月現在,症状は消失している。複雑な先天奇形があり,長期経過中に複数科に関連した愁訴が現れ,治療に難渋していた症例であったが,漢方医学的に病態を捉えることで症状が緩和できる可能性があることが示唆された。
日本東洋医学会学生部会は,第73回日本東洋医学会学術総会にて発足し,全国の学生が東洋医学を学び,交流する場として活動を開始した。本報告では,令和6年度に実施された第74回学術総会における学生懇親会およびサークル交流会の概要を紹介する。学生懇親会では21大学の学生が参加し,活発な学生交流が行われた。サークル交流会では各大学のサークル活動の報告に加え,「東洋医学の生涯学習」について討論が行われた。学生部会の持続的運営に向けた課題として,事務局の引継ぎ,学生部会のメリットの明確化,全国サークルとの連携,情報集約のハブ機能の強化が挙げられる。今後,活動の輪を広げ,学生の学びを支える体制を確立することが求められる。