日本東洋医学雑誌
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最新号
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総説
  • 康永 秀生
    原稿種別: 総説
    2024 年 75 巻 4 号 p. 287-293
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル フリー

    本稿では,近年隆盛している医療ビッグデータの中でも,日常の保健・医療・介護の現場から恒常的に生み出されるリアルワールドデータについて,その定義と類型,それを用いた臨床研究の概要を説明する。また,リアルワールドデータを用いた漢方臨床研究について,以下の6つの事例を紹介する:(1)大腸がん手術後の重症イレウスと大建中湯,(2)抗コリン薬使用中の慢性閉塞性肺疾患患者と大建中湯,(3)人工呼吸器管理中の経腸栄養不耐症と大建中湯,(4)イリノテカンによる化学療法の忍容性と半夏瀉心湯,(5)不育症と当帰芍薬散・柴苓湯など,(6)急性膀胱炎に対する猪苓湯。

臨床報告
  • 河野 恵子
    原稿種別: 臨床報告
    2024 年 75 巻 4 号 p. 294-297
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル フリー

    症例は56才男性。誘因なく強い心窩部痛が出現し,近医内科を受診し精査したが原因がわからず,疼痛治療のために当ペインクリニックを受診した。腹部 CT にて腸間膜脂肪織炎を認めた。同疾患は保存的治療が優先されるところであったが,患者の希望で漢方治療を施行した。漢方医学的所見では少陽病と水毒が見られたため柴苓湯を投与したところ,服用開始2日後には症状は軽減し,10日後までに疼痛は消失した。疼痛の原因は腸間膜脂肪織炎であった可能性があったが,漢方医学的治療によって速やかに疼痛が改善した。漢方治療は,腸間膜脂肪織炎の治療法の選択肢となる可能性がある。

  • 眞木 賀奈子, 今井 純生, 村井 政史, 竹田 眞, 渡辺 廣昭
    原稿種別: 臨床報告
    2024 年 75 巻 4 号 p. 298-303
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル フリー

    気管カニューレおよび人工呼吸器を装着している長期臥床患者においては,喀痰吸引を頻繁に必要とすることがあり,患者の苦痛につながっている。今回,多量の喀痰を伴う長期臥床患者に竹筎温胆湯エキスを投与し奏効した2症例につき報告する。症例1は44歳男性で,蘇生後脳症にて気管カニューレが挿入されており,夜間に多量の白色喀痰を認めていた。症例2は90歳女性で,急性硬膜下血種術後,意識障害が回復せず長期に人工呼吸器を装着しており,痰がらみによるむせが原因で人工呼吸器アラームが頻回に鳴っていた。両症例において,竹筎温胆湯を処方後,喀痰量および喀痰吸引の回数が著明に減少し,また,繰り返す気道および尿路感染症も減少した。抗炎症・鎮咳去痰・精神安定作用等を持つ竹筎温胆湯による漢方治療は,長期臥床患者において,喀痰コントロールおよび感染防御に有用である可能性が示唆された。

  • 徳毛 敬三, 根津 優子, 中村 祐子, 奥田 博之
    原稿種別: 臨床報告
    2024 年 75 巻 4 号 p. 304-308
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル フリー

    流産後・分娩後の出血の原因として Retained Products of Conception(以下 RPOC)がある。大量出血した場合,子宮動脈塞栓術後子宮鏡下手術が有効である。出血が少ない場合は,自然排出消失を期待し経過観察する。この度,妊娠13週6日に自然破水から進行流産後に胎盤遺残となった症例と妊娠12週6日に胎児奇形で人工妊娠中絶後に胎盤遺残となった症例に,それぞれ桂枝茯苓丸を投与し自然消失した自験例2例と過去に RPOC に対し漢方薬を投与した本邦における11例の報告例を加えて検討した。13例中12例は有効で,有効例の漢方内服期間は,中央値26.5日(7~84日)であった。待機療法のみでは排出までに約3ヵ月要するが,漢方薬内服後は1ヵ月以内に排出消失しており,胎盤排出消失の促進に寄与する可能性があると考えられた。

  • 齋藤 紀彦, 平井 希, 高萩 周作, 八木橋 彰憲, 岩渕 聡
    原稿種別: 臨床報告
    2024 年 75 巻 4 号 p. 309-313
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル フリー

    限局性神経サルコイドーシスは中枢神経に限局した比較的まれな疾患で,治療抵抗性を示すことが多い。今回我々は,再燃を繰り返す神経サルコイドーシスに柴苓湯が有効であった症例を経験したので,報告する。症例は20歳代男性。閃輝暗点で発症した右後頭葉の神経サルコイドーシスの患者である。病理学的に確定診断後,デキサメタゾン4mg 内服を開始した。造影病変と脳浮腫は縮小したがデキサメタゾンを減量すると再燃するため,デキサメタゾン2mg 内服を1年間継続した。長期投与になりステロイドによる副作用も出現していたため,漢方治療を検討した。柴苓湯9g/ 日を開始し,投与13ヵ月後には造影病変並びに周囲脳浮腫の消失を認めた。柴苓湯はサイトカイン抑制作用も報告されており,ステロイド抵抗性を示すことの多い限局性神経サルコイドーシスにおいて,副作用が少なく長期投与が可能な柴苓湯は検討しうる治療法の一つであると考える。

  • 村上 永尚, 増田 光輝, 高橋 正年, 日笠 久美
    原稿種別: 臨床報告
    2024 年 75 巻 4 号 p. 314-320
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル フリー

    首下がり症候群は体幹に比して頸部が異常に前屈した状態を呈する疾患群であり,背景疾患として重症筋無力症や,後頚部の筋に限局する isolated neck extensor myopathy(INEM)など多岐にわたる。

    症例は58歳女性。X 年1月頃より特に誘因なく首を支えられなくなり,当科受診。入院精査を行い,アルコール多飲による電解質異常に起因した INEM と診断。電解質補正やリハビリで症状は軽減したが,首の重だるさ,ふらつき,しびれが残存。本症例の主病態は気血両虚及び陽虚による虚痹と考え十全大補湯加附子を開始。治療開始後,首の重さを感じなくなり手足の冷えや痛みが軽減し,歩行がスムーズとなった。治療3ヵ月後,日常生活は支障なく送ることが可能,体重は10kg 程度増加し,筋電図所見など他覚的所見も改善。アルコール多飲に起因した虚証の INEM に対して十全大補湯加附子が奏功した一例を報告する。

調査報告
  • 蛯子 慶三, 木村 容子, 髙田 久実子, 水野 公恵, 辻 恭子, 母袋 信太郎, 溝口 香絵, 高橋 海人, 森永 明倫, 津嶋 伸彦, ...
    原稿種別: 調査報告
    2024 年 75 巻 4 号 p. 321-327
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル フリー

    1992年3月~2022年2月までの30年間に当研究所鍼灸外来を受診した顔面神経麻痺患者867例の受療行動を調査した。その結果,医療機関からの紹介452例(52.1%),Web 閲覧294例(33.9%),知人からの紹介70例(8.1%),その他51例(5.9%)であった。Web 閲覧が受療行動に繋がった例を2003年3月~2013年2月(10年)と2013年3月~2022年2月(9年)で比較すると,前者9例,後者285例と31.7倍に増加した。2013年に当研究所 Web サイトに,自著論文に基づく顔面神経麻痺の鍼治療方針を掲載したことが,この増加の主な要因と考えられた。また,当研究所 Web サイトへの掲載は,学外の医療機関からの紹介患者の増加にも影響を与えたことが示唆された。今後,学術論文に基づく情報発信ならびに医療連携の構築が望まれる。

フリーコミュニケーション
  • 川邉 庸介, 鈴木 貴世, 山口 拓洋, 高山 真
    原稿種別: フリーコミュニケーション
    2024 年 75 巻 4 号 p. 328-337
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル フリー

    臨床試験の実施に際して,品質を確保することは研究の信頼性および価値を高めることに繋がるが,具体的な活動はあまり知られていない。本稿では,日本東洋医学会主導臨床試験を基にデータセンターを中心として実施した品質管理活動(データマネジメント,モニタリング等)に焦点を当て報告する。研究に際しては,継続的に監視するアプローチ,問題の発生を未然に防ぐ取り組み,研究チーム間の緊密な連携など,質の高い研究を実施するための留意点がある。学会主導研究では研究期間中に,ワクチン接種の開始,入力データの保存障害,感染症の病態解明等があり,それぞれに関連した品質管理対応が必要となった。研究計画書の修正,データ保存障害報告及びそれに伴うデータ補完対応等を行い,品質が担保された臨床研究の遂行が実現された。新興ウイルス感染症に対する漢方薬の研究は歴史的に見ても貴重であり,その経験や課題解決について共有したい。

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