日本東洋医学雑誌
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臨床報告
  • 平澤 一浩, 塚原 清彰
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 3 号 p. 223-227
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/03
    ジャーナル フリー

    拍動性耳鳴は頸部,頭蓋底,側頭骨領域の血管内腔で発生した乱流に起因する。今回,頸動脈狭窄が原因と考えられた拍動性耳鳴に対して,八味地黄丸が奏効した2例を経験した。症例1は77歳男性。10年以上前から左拍動性耳鳴を自覚し,当科を受診した。超音波検査で左頸動脈に56%の狭窄を認め,これが原因と考えた。腎陽虚の所見を認め,八味地黄丸を投与したところ,12週後に症状は消失した。症例2は86歳男性。1年前から左拍動性耳鳴を自覚し,当科を受診した。他院で左頸動脈の70%程度の狭窄を指摘されており,これが原因と考えた。腎陽虚の所見を認め,八味地黄丸を投与したところ,16週後には1 / 4程度に改善した。動脈硬化に伴う頸動脈狭窄による拍動性耳鳴も,加齢性の内耳性耳鳴と同様に,腎虚ととらえ治療可能な例があると考えられた。

  • 平良 賢周, 新井 絵理, 三浦 和仁, 山崎 裕
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 3 号 p. 228-232
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/03
    ジャーナル フリー

    70歳代女性の舌痛症に対して,牛車腎気丸単独で著効を示し,舌痛が軽快した1症例を報告する。5年前,精神的ストレスを受けたころから舌痛を自覚するようになった。舌痛症と診断し,うつ病ですでに長期間にわたり抗うつ薬が投与されていたこと,舌痛以上に腰痛や下肢のしびれなど腎虚を示唆する症状に煩わされていたことから,まずは全身状態の是正を目的に牛車腎気丸を開始したところ,腎虚のみならず舌痛も著明に軽快した。現在は経過観察中であるが,再燃傾向は認めず経過は良好である。漢方治療によって全身状態を整えたことが,舌痛症の改善につながったと思われる。

  • 向野 晃弘, 藤本 誠, 貝沼 茂三郎, 渡り 英俊, 柴原 直利, 嶋田 豊
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 3 号 p. 233-242
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/03
    ジャーナル フリー

    抑肝散加陳皮半夏が体感幻覚症やアパシーに有効であった症例を経験した。症例は66歳女性,主訴は喉のつまり感。3年前より喉のつまり感が出現。その後3回入院し,様々な漢方薬が無効で経口摂取困難となり,1年前より経鼻栄養を開始した。精神科にて体感幻覚症の診断で抗精神病薬が開始された。喉のつまり感が悪化しX年9月当科へ入院した。体重29kgとるいそう,低栄養状態で,体動困難,パーキンソニズム,認知機能障害,アパシーを認めた。通脈四逆湯にて歩行器歩行可能になったが,喉のつまり感は改善せず。抑肝散加陳皮半夏に転方2日後より発話量や笑顔が増え,意欲が向上した。エキス剤投与後に左の胸脇苦満が消失し,ゼリーを自分で摂取できるようになり独歩可能となった。転院8ヵ月後には固形物が経口摂取できるようになり,体重は41.5kgまで増加していた。抑肝散加陳皮半夏が体感幻覚症やアパシーに有効である可能性が考えられた。

  • 中村 雅生, 緒方 優一, 木村 豪雄
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 3 号 p. 243-246
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/03
    ジャーナル フリー

    根尖性歯周炎とは,むし歯(う蝕)などが原因で根の先(根尖)の周囲にある歯周組織に生じた炎症性病変である。治療には原因となっている歯の内部の感染した歯髄や腐敗物,細菌を取り除く感染根管治療を行なう必要がある。症例は77歳男性で,右下第一大臼歯の根尖性歯周炎と診断され,根管治療を勧められたが,その治療に強く抵抗し同意しなかった。そこで排膿散及湯と立効散を用いた漢方治療を行なったところ,抗菌剤,鎮痛剤を用いることなく3年以上安定して経過している。歯根膜炎はそのまま放置していれば徐々に悪化していく可能性が大きい。通常の歯科治療が困難な症例では漢方治療も有用ではないかと思われた。

  • 植草 康浩, 喜多 敏明
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 3 号 p. 247-253
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/03
    ジャーナル フリー

    難聴,耳鳴,めまいなどの神経耳疾患はそのメカニズムや原因が充分に明らかにされておらず,西洋医学的なアプローチも限られるため治療に難渋する場面をよく経験する。今回,高音域を中心とした感音難聴に大柴胡湯が奏効した3例を報告した。急性感音難聴の加療後に高音域の難聴が残った際や高音域の急性感音難聴に対し,腹証を含めた漢方医学的アプローチを行うことは,耳鳴などの併存症状だけでなく聴力改善の可能性がある。

  • 福嶋 裕造, 松本 裕子, 森 純人, 鮫島 直美, 福井 孝之, 福井 美佐, 菊本 修
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 3 号 p. 254-258
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/03
    ジャーナル フリー

    陰証の疼痛に対する西洋医学的治療は困難である。今回は漢方医学的に陰証の肩関節周囲炎に対して漢方治療が有効であったので報告する。症例は3例ですべて女性であり,それぞれ当院における治療の時系列で,59歳,74歳,62歳であった。これらの症例は,すべて問診で陰証の肩関節周囲炎と診断されて,独活葛根湯の方意で葛根湯と疎経活血湯を投与して有効であった。古典的に「柔風」を陰証の四肢疼痛と解釈し,これらに対して有効である独活葛根湯の方意について検討した。

  • 眞木 賀奈子, 今井 純生, 村井 政史, 竹田 眞
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 3 号 p. 259-263
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/03
    ジャーナル フリー

    咳嗽時または深呼吸時の胸痛を主訴に受診する患者に対し柴陥湯が著効する症例をたびたび経験するが,その報告は多くはない。今回,当院呼吸器内科外来に咳嗽時または深呼吸時の胸痛を主訴に来院し,柴陥湯エキスを投与して明らかな改善を認めた3症例を経験した。症例1は17歳女性で胸膜炎,症例2は57歳男性で胸膜炎疑い,症例3は45歳女性で感染性咳嗽と診断した。3例に胸脇苦満を,2例に心下痞鞕を認めた。全例に柴陥湯エキスを投与し,早期に胸痛が改善した。胸膜炎や重度の咳嗽に伴う胸痛を呈する際には,胸脇苦満や心下痞鞕などの腹証を参考に,柴陥湯を用いた漢方治療が有効であることが示唆され,鎮痛剤を使用せずに,早期に改善し得た。

  • 坪 敏仁, 工藤 隆司, 皆川 智子, 鈴木 雅雄, 丹野 雅彦, 三潴 忠道
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 3 号 p. 264-273
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/03
    ジャーナル フリー

    両側性局所性下肢浮腫患者を対象とし,鍼治療とそれに引き続いて行った鍼および漢方薬併用治療の効果を検討した。

    初回治療時の鍼治療前後の計測で,下肢周囲径は29.1 ± 6.8cmから28.1 ± 7.0cm(p<0.01)と減少した。また超音波で測定した下肢皮下組織径は10.4 ± 3.8mmから7.8 ± 3.4mm(p<0.05)と減少した。下肢浮腫程度には変化はなかった。

    続いて行った鍼および漢方薬併用治療では,治療開始時から効果判定時までに,踵部浮腫面積は24.1 ± 2.5cm2から3.0 ± 2.1cm2と減少を認めた(p<0.01)。また症状では浮腫と冷えの改善を認めた(p<0.05)。

    鍼治療および,鍼および漢方薬併用治療は下肢浮腫治療に有用と思われた。しかし,本臨床経験ではコントロール群の設定が困難であったため,結果は推察にとどまると思われた。

  • 森 裕紀子, 小田口 浩, 花輪 壽彦
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 3 号 p. 274-279
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/03
    ジャーナル フリー

    梔子豉湯(山梔子と香鼓)に関する報告は少ない。今回不安感,不眠,胸部症状を落ち着きなく激しく訴えた女性6例に対し梔子豉湯を処方した。全例熱証を認めるか,あるいは冷えを認めなかった。症例1は64歳。イライラや胸の締め付けが4日で消失。症例2は63歳。心がザワザワすること,嫌な夢,みぞおちの不快感が8日後に消失。症例3は36歳。当院通院中に突然,咽のつまりと舌痛を訴えたため転方したところ5日後に消失。症例4は73歳。不安神経症の治療中に出現した不眠が転方2日で消失。症例5は84歳。不安と動悸の治療中に突然不安発作が生じたため転方したところ5日間で焦燥感が軽減。その後動悸は消失したが,不安発作が再発したため本方を再投与したところ7日間で焦燥感が軽減。症例6は48歳。身内の急死後発症したうつ病で,西洋医学的治療併用の上11日間服用したが効果はなかった。

調査報告
  • 升井 大介, 髙城 翔太郎, 愛甲 崇人, 靏久 士保利, 坂本 早季, 東舘 成希, 古賀 義法, 七種 伸行, 深堀 優, 橋詰 直樹, ...
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 74 巻 3 号 p. 280-287
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/03
    ジャーナル フリー

    自施設では小児外科疾患患児の広い臨床症状を対象に漢方指導医の下,様々な漢方薬が処方されてきた。現在は漢方指導医不在の中で漢方処方を継続している。小児外科診療で漢方診療を継続し,より充実させることを目的として14名の医師にアンケート調査を実施した。全員が漢方の有効性の実感と漢方治療の学習意欲を有していた。漢方の情報取得方法は,文献からが全員と最も多く,処方決定法は病名,症状からが全員であった。漢方指導医の不在により,多剤を併用することが少なくなったという意見がみられた。今回の調査では当科である程度漢方薬の処方がされており,漢方薬の有効性を実感している医師が多数であった。今回のアンケート調査を契機に当科医師3名が漢方専門外来施設で研修を開始した。指導医が不在になってもこれまでの漢方診療を持続可能にすることが重要であり,アンケートの実施により各医師が漢方診療の必要性を再認識した。

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