日本東洋医学雑誌
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老人性難聴に付随する耳鳴への中医学的鍼治療の試み
呉 孟達稲福 繁Lawrence C-L HUANG
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キーワード: 耳鳴, 高齢者, 難聴, 鍼治療, 中医学
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2003 年 54 巻 3 号 p. 661-670

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抄録

現代医学的治接療が難渋した老人性耳鳴の四症例に対して, 中医学的鍼治療を施行した結果, 興味深い臨床知見が得られたので報告する。
初診時, 純音オージオグラムでは全症例とも高音漸傾型の感音難聴を呈し, また標準耳鳴検査法においては, 各症例それぞれに最高14dBから6dBまでの耳鳴ラウドネスが検出されていた。さらに語音聴力検査やSISIテストにて, 症例1と症例2はいわゆる迷路型, 症例3は混合型, そして症例4は後迷路型の聴覚障害であると判明した。その一方で, 中医学的弁証論では, 全症例の病因病機はいずれも, 耳や脳の基本栄養物質である腎精気の加齢による衰退, すなわち「腎精虚損証」に深く関与しているものと診断された。これより, いわゆる「補腎益気・養耳健脳」という治療原則を導き出し, それに基づいて週1回, 連続10週間, 合計10回の鍼治療を行った。
その結果, 明らかな迷路性障害が存在した症例1・2・3は, ほぼ毎回鍼治療後, 約半日から数日間に亘って, 程度差があるものの確実な耳鳴の軽減効果が見られた。特に3回目の治療以降は, それぞれの症例における自覚的耳鳴の大きさや耳鳴のラウドネスは, 常時治療前の1/2~1/3のレベルにまで低下するとほぼ満足の行く臨床効果が示された。しかしながら, 症例4に関しては今回の鍼治療の期間中には, 耳鳴ラウドネスの多少の変動が見られたものの, 全般的に病状の明らかな緩解までには至らなかった。
結論として, 中医学的鍼治療は老人性耳鳴に対して一定の軽減作用を有するものであろうが, その中でも後迷路性のものに比べ, とりわけ迷路性または混合性の耳鳴には, より適した治療方法ではないかと考えられる。今後, そのさらなる臨床応用が期待される。

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