日本東洋医学雑誌
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漢方薬の薬剤経済分析のためのフィージビリティー・スタディー
濃沼 政美亀井 美和子松本 邦子八木 美才白神 誠
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2005 年 56 巻 5 号 p. 813-822

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抄録

〔目的〕漢方薬の有用性を費用対効果の面から明らかにすることを目的に, 過去の研究論文を解析することにより, 如何なる処方や疾患に対し, 薬剤経済分析を実施することが相応しいかについて判断基準を設け検討を行った。
〔方法〕医学中央雑誌及び医療経済研究機構のデータベースで, 漢方―経済等のキーワードを検索し, 原著・臨床・薬価基準収載処方の論文 (EA) を抽出した。薬剤経済分析では比較対照治療法の確立が重要であるため, 判断基準 (1)として比較対照のある研究論文 (Comp) を抽出し, 対象 (疾患・処方), 対照処方, 測定アウトカム・「証」の取り扱い等について解析を行った。次いでEAにおいて研究頻度の多い処方はアウトカムが豊富かつ明確であると考えこれを判断基準 (2) として, 該当処方のアウトカム解析を行った。
〔結果・考察〕
判断基準 (1): Comp (38件) に含まれる処方と延べ収載件数は25処方41件 (多い順に小青竜湯4件・小柴胡湯4件・〓帰調血飲3件・他) であった。研究対象疾患は消化器疾患, 感染症, 耳鼻咽喉疾患, 女性妊娠分娩関連の研究が全体の約3分の2を占めた。またアウトカムはQOL等の人間的アウトカムの測定がされた論文は10.5%しか存在せず, 費用効用分析の実施が難しいものと思われた。また「証」の取り扱いついて解析した結果, 虚証対象の処方は随証治療を考慮せずとも比較的治療効果が得やすいと考えられた。
判断基準 (2): EA中, 延べ収載件数の多い処方を便宜上15件以上と定義し抽出を行った結果6処方が抽出された (補中益気湯・桂枝茯苓丸・梔子柏皮湯他)。この中で, 梔子柏皮湯は研究のアウトカムの殆ど (88.2%) が直接的な治療目標であり, 内容は紅斑や掻痒の消失等皮膚症状改善であった。
〔結論〕・漢方薬と西洋薬では最終的な効果がほぼ同じであっても効果を得る上での作用機序が大きく異なるため, 単純には比較しにくいことが明確となった。・漢方薬によりQOLが改善する事が十分に考えられたため, 薬剤経済研究も含め人間的アウトカムを得られる研究計画を立てる必要があろう。・虚証対象の処方については比較的, 随証治療を考慮せずとも臨床効果は得やすいものと考えられた。

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