感染症学雑誌
Online ISSN : 1884-569X
Print ISSN : 0387-5911
ISSN-L : 0387-5911
原著
北海道洞爺湖サミットにおける症候群サーベイランスの実施
大日 康史山口 亮杉浦 弘明菅原 民枝吉田 眞紀子島田 智恵堀 成美杉下 由行安井 良則砂川 富正松井 珠乃谷口 清州多田 有希多屋 馨子今村 知明岡部 信彦
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 83 巻 3 号 p. 236-244

詳細
抄録

2008 年7 月7~9 日に行われた北海道洞爺湖サミットにおいて,バイオテロ,あるいは他の健康危機事案の早期探知を目的として症候群サーベイランスを実施した.サーベイランスは,医療機関で行った疑似症定点以外に,調剤薬局サーベイランス,救急車搬送サーベイランス,OTC サーベイランス,一般住民の健康状態監視を行った.症候群サーベイランスは,サミット開催2 週間前6 月23 日から閉会後2 週間の7 月23 日まで実施した.調剤サーベイランスは,薬局での処方箋枚数から,一部は完全自動でデータ取得を実施し, 一部はインターネットのWEB 登録への手入力で実施した.救急車搬送のサーベイランスは,救急車搬送の出動記録からの完全自動方式と手入力方式を併用した.OTC サーベイランスは,薬局での売り上げデータを2 社の民間企業から購入した.一般住民の健康状態監視は,民間調査会社とモニター契約を結んでいる個人に対してパソコンあるいは携帯電話を通じての健康状態の報告を求めた.取得したデータに対して,自動的に解析を行い,その結果をもとに,保健所が調査を行うかどうかの判断を,北海道庁,道立衛生研究所,国立感染症研究所,厚生省との電子メールのやり取りで行い,週末も含めて毎日10 時までに実施した.また,日報およびその概要の配信はおおむね10 時半までに行われた. 調剤薬局サーベイランスは23 薬局が完全自動化のシステムに,また71 薬局が手入力のシステムに参加した.救急車搬送サーベイランスは洞爺湖を管轄する消防本部及びサミット対応のために設置された統括警戒本部では完全自動のシステムが使用されたが,他の7 消防本部で手入力で実施された.OTC サーベイランスは79 薬局から収集されたが,一日遅れで,また解析を自動化することはできなかった.インターネットによる健康状態の調査は472 世帯が参加し,解析,還元も完全自動で行われた.幸いにしてサミット期間中特筆される健康危機事案は認められなかったが,救急車搬送サーベイランスが探知した異常に対して7 回保健所が調査を行った. このシステムは実施可能で有用である事が示された.特に,救急車搬送サーベイランスは感度が高かった.症候群サーベイランスは,完全自動化されることが最も望ましいが,サミットにおいては一部手入力あるいは手動による解析を行わざるを得なかった.常時稼働で完全自動システムの構築が症候群サーベイランスの次の目標である.

著者関連情報
© 2009 社団法人 日本感染症学会
前の記事 次の記事
feedback
Top