感染症学雑誌
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原著
茨城県北茨城市のある中学校を発端とした麻疹アウトブレイク事例での実地疫学調査について
加來 浩器大山 卓昭多屋 馨子岡部 信彦
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2011 年 85 巻 3 号 p. 256-262

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抄録

2002 年春,茨城県北部のある中学校を発端とした麻疹のアウトブレイクが発生した.県と市の合同対策会議は,国立感染症研究所及び同研究所の実地疫学専門家養成コース (FETP-J) に派遣を要請した.症例定義に基づき 84 名が検出され,うち 67 名 (79.8%) が A 中学校生で,8 名 (9.5%) が他の小中学生,9 名 (10.7%) が一般市民であった.46 名 (54.8%) は麻疹ワクチン接種歴を有しており,典型的なコプリック斑を呈さない例が多かった.北茨城市は,麻疹ワクチン未接種でかつ未罹患の者を対象に,乳幼児と生後 90 カ月から高校 1 年生の年齢の者に対して公費負担による追加予防接種を実施した. A 中学校での発生状況を詳細に検討するため保護者を対象としたアンケート調査を行い,その結果,86 症例 (男 57 名,女 29 名) を検出した.初発群から 4 次感染までが確認され,「卒業生を送る会」,「卒業式」が麻疹ウイルスへの曝露及び拡大の機会であったことが推察された.全体での麻疹ワクチン接種率は 82.2% であり,ワクチン不全 (VF) は 15.2% と高く,ワクチン効果 (VE) は 72.5% と極端に低かった.既接種者における症状は,接種者に比して有意に軽症であった.当地では,過去10 年間に麻疹の大規模な流行が無く,そのために幼児期にワクチンにより獲得した免疫が低下していた可能性が考えられた.このような状況下にひとたび麻疹ウイルスが持ち込まれると,未接種・未罹患の感受性者では典型的な麻疹が,既接種者ではより診断が困難な修飾麻疹が地域散発的に発生するのではないかと考えられる.これらの調査結果は,国のワクチン 2 回接種導入の基礎となった.

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© 2011 社団法人 日本感染症学会
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