抄録
Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)は,病院感染の主要な原因菌の一つであり,その治療薬であるvancomycin(VCM)の低感受性化はMRSA 感染症にとって脅威である.今回われわれは,グリコペプチド系抗菌薬を投与中の患者から検出されたvancomycin intermediate Staphylococcus aureus (VISA)3 株の臨床微生物学的解析を行った.症例1 は感染性心内膜炎の血液培養,症例2 は術後肺炎の吸引痰培養,症例3 は化膿性脊椎炎の血液培養から検出され,いずれの症例も長期間のグリコペプチド系抗菌薬の投与が行われていた.これらのVISA3 株は細胞壁の肥厚が認められ,症例1 と症例3 より分離されたVISA についてはパルスフィールド電気泳動,ならびにVCM に対するポピュレーション解析により,初回に検出されたMRSA が治療経過に伴い耐性化していた.また,これらのVISA3 株をVCM 不含培地で継代培養することにより,細胞壁の肥厚に変化は認められなかったものの症例2 と症例3 より分離されたVISA はMIC の低下が認められた.今後はMRSA のVCM に対する耐性化を抑制する抗菌薬の投与方法の検討も必要と考える.