感染症学雑誌
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原著
PCR/核酸クロマトグラフィー法を応用した 敗血症原因菌の迅速同定法の開発
亀井 数正杉本 典彦久保 聡美上原 啓嗣賀来 満夫
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2017 年 91 巻 5 号 p. 752-758

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抄録

敗血症は,世界各国で死亡率の高い疾患である.敗血症治療において,早期に原因菌を同定し,適切な抗菌薬を投与することが救命の鍵を握るものの,血液培養を初めとする従来の細菌同定法は迅速性に乏しい.本研究では,血液培養から分離頻度の高い黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,腸球菌(Enterococcus faecalis),大腸菌,肺炎桿菌,緑膿菌,エンテロバクター(Enterobacter cloacae)の迅速同定法として,cell-direct PCR(cdPCR)/核酸クロマトグラフィー法を開発した.まず我々は,感染に対する初期の生体防御反応である好中球の細菌貪食作用に着目し,本法により好中球内の細菌DNA の検出を試みた.in vitro で健常人の白血球に各種細菌を貪食させ,cdPCR 法を適用したところ,PCR チューブに白血球を乾燥固定した状態で好中球内の細菌DNA が増幅され,NALF 法により菌種を迅速に同定することができた.次に健常人の血液と大腸菌,もしくは黄色ブドウ球菌を共培養することで菌血症の状態を模倣し,cdPCR/核酸クロマトグラフィー法を適用した結果,血液検体から直接,4.5 時間以内に標的菌を検出できた.また,培養法と検出感度を比較した結果,検体によっては培養法で陰性(10 コロニー形成単位/mL 以下)であってもcdPCR/核酸クロマトグラフィー法では陽性結果が得られた.さらに白血球に貪食された細菌数をリアルタイムPCR 法で概算した結果,少なくとも白血球20 万個あたり101 オーダーの細菌が貪食されていればcdPCR/核酸クロマトグラフィー法で陽性結果が得られることが示唆された.これらの結果は,cdPCR/核酸クロマトグラフィー法は微量な細菌DNA を特異的に検出できる可能性を示しており,敗血症原因菌の迅速同定法としての臨床応用が期待される.

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© 2017 一般社団法人 日本感染症学会
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