感染症学雑誌
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原著
川崎市において短期間に経験した過粘稠性クレブシエラ・ニューモニエ感染症6例の検討
三﨑 貴子窪村 亜希子丸山 絢細田 智弘坂本 光男中島 由紀子長島 悟郎國島 広之竹村 弘岡部 信彦
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2019 年 93 巻 3 号 p. 319-325

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抄録

肝膿瘍や転移性膿瘍を特徴とし,過粘稠性を示すhypervirulent Klebsiella pneumoniae(hvKP)を原因とする侵襲性感染症は,台湾をはじめとするアジア諸国を中心に世界的に報告がみられるが,国内では地域におけるまとまった報告は少ない.2017年1~4月に,川崎市内の3医療機関から6例のhvKP感染症例の報告があったため,川崎市健康安全研究所で菌の遺伝子解析を実施し,収集した情報を用いて疫学的解析を実施した.
6例は70~85歳(年齢中央値73歳)の男性で,症例間の疫学的関連はなかった.敗血症が4例(肝膿瘍3例,肺炎1例),敗血症を伴わない肺炎が2例であった.基礎疾患や既往は癌(胃癌及び前立腺癌)の術後2例,胃潰瘍2例,糖尿病及び高血圧1例,関節リウマチ1例,B型肝炎ウイルス(HBV)及びHTLV-1キャリア1例であり,1例に肝膿瘍の既往があった.初発症状は発熱が4例,右季肋部痛と食事摂取困難が各1例で,特徴的なものはなかった.死亡例は,HBV及びHTLV-1キャリアで糞線虫症と髄膜炎を合併した肝膿瘍の1例と,胃癌の術後で関節リウマチのある重症肺炎の1例であった.粘稠性関連遺伝子rmpAは全例陽性,うち4例がmagA陽性(capsular serotype K1)でMultilocus Sequence Typing(MLST)は23であった.magA陰性の2例(K2)のMLSTは86及び380であった.死亡例のMLSTは23及び380であった.これらは全てアジア地域で既に報告されている株と類似しており,薬剤への感受性については概ね良好であった.
国内におけるhvKP感染症の疫学情報は明らかでないが,すでに地域で循環している可能性もあり,今後,耐性を獲得する可能性も考慮すると,適切なサーベイランスが必要と考える.

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© 2019 一般社団法人 日本感染症学会
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