感染症学雑誌
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富山県F小学校に発生した流行性腎炎に関する細菌学および血清学的検討
児玉 博英白潟 智旨久保田 憲太郎
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1971 年 45 巻 8 号 p. 321-329

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抄録

1970年晩秋, 県下F小学校に発生した急性腎炎流行の概況は次のようであつた. 月別の腎炎発生数は同年6月4名, 7月8名, 9月1名, 10月6名, 11月32名, 12月5名, 1月2名で累計58名であつた. 腎炎に先行して発熱, 咳, 咽頭痛などを主体とした上部気道疾患が認められた.学校の平常の欠席数は20名前後であつたが, 11月に入つて急激に増加し, 24日には94名に達し, 健康調査を行なつた11月27日の時点でも, 上部気道の異常を訴える児童を多数認めた.
そこで有症者を中心として児童176名について, 咽頭よりの溶連菌の分離, 酸加熱抽出抗原を用いた微量ゲル内沈降反応と毛管沈降反応による同定およびペア血清についての血中ASO価の測定を行なつた. その結果, 第1回目の保菌者検索でA群溶連菌保菌率が32.5%と著しく高く, しかもそのうち80%以上が12型菌の保菌者であつたことが判明した. 更に, これら12型菌保菌者群は保菌者群に比してASO価が一般に高く, しかも第1回目の菌検索で12型菌の保菌者でありながら, ASO価が166以下であつた者の殆んどが, 3週後に有意なASO価の上昇を示したことなども明らかにされた.
以上の事実は, この集団に発生した流行性腎炎が, 溶連菌A群12型による上部気道疾患にもとつくことを明らかに裏付けた.
微量ゲル内沈降反応による分離菌の同定結果は, 従来広く用いられている毛管沈降反応の成績と極めてよく一致したが, 未吸収型血清を用いて, A群とある型が同時に判定出来ること, 判定が容易且つ確実であること, 貴重な抗血清の必要量が, 毛管沈降反応よりも少なくてすむこと, どの利点があり, 特に本集団のようにA群12型といつたある特定の型を主として追及する場合には極めて好都合であつた.

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