感染症学雑誌
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肝硬変症のLactulose無効の肝性脳症に対するvancomycin hydrochloride (非吸収性抗生物質) の治療効果
多羅尾 和郎池田 俊夫林 和弘桜井 彰土屋 豊一伊東 達郎岡田 哲郎
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1986 年 60 巻 4 号 p. 283-292

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抄録

現今の肝硬変症における肝性脳症の治療法は, 食事中の蛋白質の制限とlactulose投与が通常であるが, これらのみでは抑えられない難治性の脳症があり, それらにはFischer液の様な特殊アミノ酸制剤の投与が勧められているが, これらを外来患者に長期に投与することは社会的に困難である.一方, われわれは最近, 嫌気性グラム陰性桿菌は抑えるが, 好気性グラム陰性桿菌は抑えない非吸収性抗生剤のVancomycin hydrochloride (以下VCM) が肝硬変の肝性脳症に著効を奏する事を証明した.そこで今回われわれは, lactuloseの無効な肝硬変症の難治性脳症5例, およびlactulose投与により激しい下痢を来たし使用不能となった1例の計6例にVCM 2000mg/dayを投与し, その前後における臨床症状, 脳波所見, 血中アンモニア値および糞便内細菌叢の変動を検索した.その結果, vancomycin投与後, 全例で脳症の消失, 血中アンモニア値の下降をきたした.糞便の細菌叢の変動では, Bacteroidesを主とした嫌気性グラム陰性桿菌は, lactulose投与時には糞便1g当たり108~9個であったが, VCM投与後には103~6個に激減した.一方, 好気性グラム陰性桿菌数には両剤投与間に変化は無く106~9個であった.Lactulose無効の肝硬変の肝性脳症にVCMは有効であり, それはVCM投与によってBacteroidesを主とする嫌気性グラム陰性桿菌が激減することによると推定された.

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