感染症学雑誌
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直腸腫瘍の術後に腹腔内膿瘍より分離されたEscherichia coliが産生するSHV-由来extended-spectrum β-lactamase (SHV-12)
中村 竜也内田 幸子平城 均桝田 緑高橋 伯夫小松 方相原 雅典黒川 博史柴田 尚宏八木 哲也荒川 宜親
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2000 年 74 巻 2 号 p. 112-119

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抄録

62歳女性の直腸腫瘍術後に細菌感染症を続発した. CTM, CZOPなどの投与にもかかわらず感染症状は改善されず, 術創部膿瘍が発生し腹膜炎も併発した. ドレナージと膿瘍の洗浄を併用する中で, 感染症状は軽快した. その後, 人工肛門造設術が施行された際に一過性に感染症を疑わせる兆候が見られたためCZOPが再度投与されたが, 明らかな感染症は出現せず, やがて, 病状も改善したので退院し, 現在は外来で経過観察中である. 膿瘍の膿培養にて, CAZに耐性 (MIC: >16μg/ml) を示す大腸菌が分離された. 本分離菌では, クラブラン酸によりCAZに対する耐性度が低下 (CVA添加によりCAZのMICが64μg/mlから≦0.13μg/mlに低下) する現象が観察されたため, 初期の段階でextended spectrum β-lactamase産生菌が疑われた. 便からも同様の耐性を示す大腸菌が分離されたため, 院内感染対策が直ちにを講じられ, ESBL産生菌の施設内拡散を阻止することができた. その後, PCR解析と遺伝子の塩基配列の決定により, このCAZ-耐性大腸菌は, ESBL (SHV-5-2a=SHV-12) 産生菌である事が確定した. 本報告は, 国内におけるSHV-型ESBL産生大腸菌による感染症例の最初の報告である. 欧米でのTEM-, SHV-型ESBL産生菌の増加や院内感染などの状況を考えた場合, 今後, 国内でもこの種の耐性菌の増加が懸念される. 緻密な感染症対策と慎重な抗菌薬療法を実施する上で, 臨床分離菌がどのような種類のβ-ラクタマーゼを産生しているかを識別することが益々重要となっている.

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