2021 年 62 巻 10 号 p. 656-662
症例は70歳男性.X-12年に肝細胞癌(HCC)を合併し,局所治療と再発を繰り返していた.X-1年に腹部リンパ節転移および肺転移が出現したため,ソラフェニブによる全身化学療法を開始した.しかしその後も病勢は進行し,リンパ節転移巣からの浸潤による高度な十二指腸狭窄を来し,経口摂取不能となった.消化器外科医との緊密な協議と患者に対する十分なインフォームドコンセントを行った上で,腹腔鏡下に胃・小腸バイパス術を施行した.術後経過は良好で,経口摂取が可能となり,自宅退院となった.その後は在宅終末期医療を希望され,約6カ月後に原病の進行により死亡した.本症例のように進行期のHCCに起因する消化管閉塞であっても,外科的バイパス術により一定期間のQOLの向上が担保される症例が存在するものと考えられ,病状を十分に考慮した上で,適切な治療を行う必要があるものと考えられた.