抄録
本報はトマト黄化えそ病の発生生態を明らかにするために行った野外調査, ならびに媒介虫駆除による本病の防除試験について述べたものである.
本病は,奈良県において五条市と宇陀郡で毎年発生しており, 発病株は調査したいずれの圃場でも畦畔沿いにみられはじめ,その株を中心に分布していた. また, 五条市ではトマト栽培跡地やその周辺でTomato spotted wilt virus (TSWV) に罹病したノゲシやオニタビラコがみられ,宇陀郡では本病の発生圃場付近には TSWV に罹病したダリア圃場が必ずみられた.
重要な媒介虫である Thrips setosus MOULTON のトマト圃場での発生は定植 (5月初旬) 後から徐々に多くなり, 6月中旬, 下旬にピークがみられた. その後の発生は6月下旬から7月上旬にかけて降雨の影響で一時密度の低下がみられたが, 梅雨明け後再び増加した. このように,アザミウマの発生には降雨の影響が大きく, とくに, 1978年には6月中旬から7月下旬まで多雨の日が多く, この時期のアザミウマの発生が著しく抑制された. また, アザミウマの圃場内分布は, 6月中旬までは圃場周辺のトマトに多く寄生しており, その後は次第に圃場内の密度格差が少なくなった.
本病の発生は6月上旬に初発病株がみられたが, 7月に入るまではほとんど増加しなかった. 7月に入ってからの本病の発生はアザミウマの発生と高い相関がみられた.
媒介虫駆除による本病の防除は5月初旬定植トマトにおいて, 保毒虫率が高まりはじめる6月中旬以降のアザミウマの徹底防除が効果的であった.