関西病虫害研究会報
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原著論文
  • 市原 実, 片井 秀幸, 村上 源太, 内山 道春, 鈴木 幹彦, 内山 徹, 雪丸 誠一, 青山 利治
    2025 年67 巻 p. 1-9
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    静岡県内の有機栽培茶園ではチャ炭疽病による被害が問題となっており,有機栽培で利用できる効果的な防除技術の開発が求められている。そこで,有機栽培茶園における病害虫防除を目的とした「茶園用病害虫クリーナー」(以下,クリーナーと略)を開発した。本機は,茶樹冠中の炭疽病葉を,送風により一定程度除去でき,送風と同時に銅殺菌剤等の薬液を散布することもできる。本研究では,静岡県農林技術研究所茶業研究センター内の茶園(静岡県菊川市)において,炭疽病防除に効果的なクリーナーの処理時期を検討した。各茶期の萌芽前または萌芽期にクリーナーを処理した区(銅剤同時処理なし)では,二番茶摘採前および三番茶期における炭疽病の防除価が42.9~53.4となり,発病葉数が無処理区と比べほぼ半減した。摘採前におけるクリーナー処理の追加または銅剤同時処理の有無による発病葉数の差異は認められなかった。次に,静岡県内2地域の現地の有機栽培茶園において,クリーナーによる炭疽病防除効果を評価した。静岡県島田市川根町の有機栽培茶園において,各茶期萌芽期と秋冬番茶摘採前にクリーナーを処理した区(銅剤同時処理なし)では,クリーナー無処理区と比べ炭疽病の発病葉数が減少し,防除価は32.3~47.0であった。静岡県沼津市の有機栽培茶園において,剪枝後の秋芽萌芽期と秋冬番茶摘採前にクリーナーを処理した区(銅剤同時処理なし)においても,クリーナー無処理区と比べ炭疽病の発病葉数が減少し,防除価は53.1~83.3であった。本研究より,クリーナーの処理により炭疽病の発生を抑制できることが明らかとなり,本機は有機栽培茶園における炭疽病防除に活用できると考えられた。

  • 北野 大輔
    2025 年67 巻 p. 10-14
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    滋賀県の水田で発生するイネカメムシの防除に有効な薬剤を選定するため,2024年7月に県南部の3地域で越冬世代成虫を採集し,5種類の化学合成殺虫剤の効果を虫体浸漬法によって検定した。加えて,効果の雌雄差を考慮したベイズモデルを用いて補正死虫率を推定した。その結果,エチプロール水和剤,エトフェンプロックス乳剤,ジノテフラン液剤およびスルホキサフロル水和剤(いずれも100 ppm)の補正死虫率は供試24時間後に80%以上となり,即効性で高い殺虫効果が認められたことから,本種の防除に有効であると考えられた。フルピリミン水和剤(100 ppm)の補正死虫率は2地点の個体群で他の剤よりも低く,殺虫効果はオスよりもメス成虫で低い傾向にあった。加えて,一部の苦悶虫が回復したために,供試24時間後よりも72時間後の補正死虫率が低くなった。

  • 川上 拓, 村田 つばさ, 伊藤 佑太, 藤澤 英二, 近藤 和夫
    2025 年67 巻 p. 15-19
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    Pseudomonas syringae pv. sesamiによるゴマ斑点細菌病に対する温湯消毒の防除効果を評価した。幼苗検定での評価では,47°C以下の温度では防除効果が顕著に低下したものの,50°C 5~20分間,55°C 5~15分間の温湯処理により高い防除効果が認められた。また,圃場試験においても50°Cおよび55°Cの処理により,同様に高い効果が認められた。

    本処理の実用性について評価するため,温湯処理が発芽に及ぼす影響を調査した。温湯処理1か月後の種子について,発芽状況を調査したところ,55°C処理では発芽勢および発芽率がやや低下する傾向が認められたことから,実用上の処理条件として,50°Cでの温湯消毒が有効であると考えられた。

  • 松田 健太郎, 松野 和夫, 金子 修治, 土井 誠, 片山 晴喜, 佐々木 大介, 田中 弘太, 井鍋 大祐, 加藤 光弘, 芳賀 一
    2025 年67 巻 p. 20-24
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    2001~2017年の静岡県中遠地域の水稲におけるイネ縞葉枯病発病株率と,水稲ほ場におけるヒメトビウンカ発生数,コムギほ場におけるヒメトビウンカ発生数およびRSV保毒虫率の関係について調べた。その結果,水稲ほ場におけるヒメトビウンカ払い落とし虫数とその翌年のイネ縞葉枯病発病株率に,正の相関が認められた。一方,水稲におけるイネ縞葉枯病発病株率と,同年の水稲ほ場におけるヒメトビウンカ払い落とし虫数,コムギにおけるヒメトビウンカすくい取り虫数,コムギにおけるヒメトビウンカのRSV保毒虫率,およびコムギにおけるヒメトビウンカのRSV保毒虫数に相関は認められなかった。

  • 東田 景太, 大朝 真喜子, 森 光太郎
    2025 年67 巻 p. 25-31
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    ブラインシュリンプ耐久卵を殻有かつ吸水した状態で与えると,そうでない場合と比べてアカメガシワクダアザミウマの生涯産卵数が多く,平均生存日数も長くなった。ブラインシュリンプ耐久卵はイチゴ株元に散布すればイチゴ株や土壌から給水が期待される。イチゴ株元に過剰量のブラインシュリンプ耐久卵を散布したところ,イチゴへの影響は観察されなかった。アカメガシワクダアザミウマ成虫放飼にブラインシュリンプ耐久卵のイチゴ株元散布を併用することは,成虫数の初期定着個体数や次世代幼虫数を増加させる効果を持つことが実験圃場試験によって分かった。現地圃場試験でも同様の傾向が確かめられた。ブラインシュリンプ耐久卵散布はアカメガシワクダアザミウマの株間分散速度や害虫と遭遇する花や果実における分布様式に影響しなかったが,より広範囲の成虫の分散に寄与している可能性が示された。

  • Shiro Nakao
    2025 年67 巻 p. 32-36
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    Prevalent mode of reproduction of wild populations of Thrips nigropilosus Uzel was examined in Wakkanai City, Japan. Furthermore, reproductive schedule, fecundity, and tertiary sex ratio were compared between thelytokous and arrhenotokous T. nigropilosus. Percentages of thelytokous adults in adult females of the Wakkanai population were 4.0% in October 1992, and about 0.8% in July 1994. Significant differences between thelytokous and arrhenotokous races were not observed in the duration of pre-ovarial maturation, oviposition periods and longevities of adult females at the 18°C and 15L-9D condition. The mean numbers of eggs deposited by thelytokous and arrhenotokous females were ca.63 and ca.142 at the same condition, respectively. The hatchabilities of eggs deposited by thelytokous and arrhenotokous females were not different from each other. The tertiary sex ratio (% male) from once-mated arrhenotokous females was about 23.6%. Net reproductive rate of the once-mated arrhenotokous female tended to be higher than that of the thelytokous female, while intrinsic rates of natural increase of them were not conspicuously different from each other.

  • 中野 亮平, 片山 晴喜, 曾根 良輔
    2025 年67 巻 p. 37-46
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    促成栽培イチゴにおける春季以降のアザミウマ類(主にヒラズハナアザミウマ)に対する4種天敵製剤の防除効果と被害果抑制効果を2022~2024年の3年間評価した。2022年はリモニカスカブリダニ(50,000頭/10 a)およびアカメガシワクダアザミウマ(15,000頭/10 a)をそれぞれ1回放飼した。リモニカスカブリダニによるアザミウマ類防除効果は認められず,本種はアザミウマ類の主な生息場所である花で確認されなかった。アカメガシワクダアザミウマはアザミウマ類幼虫密度を抑制する傾向がみられた。2023年と2024年は各天敵種を1ヶ月間隔で3回放飼した。いずれの天敵種もアザミウマ類密度を抑制したが,被害果率は天敵種によって異なった。2023年の累計被害果率は,ククメリスカブリダニ(700,000頭/10 a)<ククメリスカブリダニ(350,000頭/10 a)=スワルスキーカブリダニ(50,000頭/10 a)の順に有意に低かった。2024年の累計被害果率は,ククメリスカブリダニ(350,000頭/10 a)<スワルスキーカブリダニ(50,000頭/10 a)=アカメガシワクダアザミウマ(15,000頭/10 a)の順に有意に低かった。以上のことから,イチゴのアザミウマ類に対する防除効果はククメリスカブリダニが最も優れることが示された。この効果は,主にククメリスカブリダニの放飼密度が高いことに起因する可能性がある。ただし,5月下旬以降は被害果の増大が抑えられなかったことから,この時期以降は別の防除手段を併用する必要がある。

  • 窪田 昌春, 飯田 祐一郎, 山中 聡, 関口 実里
    2025 年67 巻 p. 47-53
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    微生物殺虫殺菌剤ボーベリアバシアーナ剤の成分菌であるBeauveria bassiana GHA株について,低栄養のYPA培地上で気門封鎖剤を含む化学殺虫剤の56剤,殺菌剤42剤に対する感受性を調査した。培地上において,GHA株の分生胞子からの菌叢形成と,菌叢ディスクからの菌叢拡大を強く阻害したのは,多作用点阻害殺菌剤のマンゼブ,チウラム,プロピネブ,キャプタンと,ステロール生合成阻害剤の3剤,さらにベノミル,アゾキシストロビン,フルジオキソニル,フルアジナムの水和剤であった。TPNは胞子発芽を強く阻害するが,菌糸伸長阻害は強くないと考えられた。殺虫剤では,殺ダニ剤のピリミジフェン水和剤が菌叢拡大を強く阻害した。これらの薬剤は混用した場合に,ボーベリアバシアーナ剤に悪影響がある可能性があるが,植物上でボーベリアバシアーナ剤の製剤を用いた場合には,異なる傾向となる可能性があり,今後の検討が必要である。

  • 窪田 昌春, 飯田 祐一郎, 山中 聡, 関口 実里
    2025 年67 巻 p. 54-58
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    植物上でボーベリアバシアーナ乳剤,水和剤の成分菌であるBeauveria bassiana GHA株の化学殺菌剤感受性を調査した。同菌株の分生胞子を,使用登録濃度とした40の化学殺菌剤と混和して,切り取ったキュウリ葉に接種して1週間培養後の同菌株のcolony forming unit(cfu)数を接種直後と比較した。その結果,多くの多作用点活性阻害剤とステロール生合成阻害剤がcfuを減少させた。ベノミル,アミスルブロム,フルアジナム,カスガマイシン,フルジオキソニル,フェンキサミド,ポリオキシン複合体,マンジプロパミド,ホセチル,シモキサニル,ピリオフェノン,フルチアニルも同菌株のcfu,すなわち生残菌数を減少させた。有機栽培に適合している炭酸水素カリウム,ナトリウムでも同菌株の菌数が減少した。これらの殺菌剤については,ボーベリアバシアーナ剤と混用した場合には,効果を阻害する可能性があるため注意を要する。

  • 田中 千晴, 佐々木 彩乃, 山口 友莉香, 西野 実
    2025 年67 巻 p. 59-62
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    イネカメムシNiphe elongata (Dallas)のイネの加害時期と加害頭数が不稔籾の発生程度に及ぼす影響を明らかにするため,出穂0,7,14日後から各7日間,0.125,0.25,0.5頭/穂を放飼した結果,全ての放飼時期で放飼頭数が多いほど籾発育度が低く,放飼頭数が同一の場合は放飼時期が早いほど籾発育度がより大きく低下する傾向が認められた。登熟初中期における放飼時期と放飼頭数をもとに不稔籾の発生率を推定するモデルを作成したところ,出穂0日,7日後,14日後に成虫1頭/株が加害した場合の平均不稔籾率はそれぞれ21.1,15.4,9.6%と推定された。このことから,登熟初期はイネカメムシ成虫の加害頭数の増加に伴い不稔籾率が増加するが,登熟中期には不稔籾率が増加する可能性が低いことが示唆された。

  • 堀川 英則, 田中 はるか, 石井 直樹, 石原 元浩
    2025 年67 巻 p. 63-72
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    施設栽培のキクに対するアザミウマ類の防除利用の可能性を検討するため,2021年秋作と2022年夏作にかけて,ハウス内の夜間電照と合わせて赤色LED光の日中電照を実施した。

    その結果,日中電照しない処理区と比較して,キク植物体上で日中電照した処理区は,アザミウマ類の寄生密度をやや低下させるるとともに,被害葉数を低減した。また,併せて実施したサイド際での日中電照した処理区については,アザミウマ類の寄生密度を低下させるとともに,被害葉数をやや低減させる効果が認められた。黄色粘着板による施設内外でのアザミウマ類の成虫の誘殺調査から,両処理区とも,日中電照が施設外からの施設内への侵入抑制効果があったものと推測された。

    一方,キク植物体上で日中電照した処理区は,キク品種“岩の白扇”の開花を大幅に遅延させることが明らかとなったため,使用場面に関して注意が必要であり,今後の試験により検討を行っていく。

  • 安松谷 恵子, 田中 貴幸, 溝手 舜, 西岡 輝美, 西村 幸芳, 藤江 隼平, 岡田 清嗣
    2025 年67 巻 p. 73-80
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    大阪府で2003年から2024年にナスすすかび病菌株を採取し,DMI剤,QoI剤およびSDHI剤の感受性を調査した。その結果,アゾキシストロビン(QoI剤)とペンチオピラド(SDHI剤)では複数年にわたって感受性低下菌はあまり見られなかった一方で,トリフルミゾール(DMI剤)では感受性低下菌の割合が高かった。また,2024年の調査では感受性低下菌率がトリフルミゾールとアゾキシストロビンで100%,ペンチオピラドで96.7%となっていた。各系統の他剤では感受性低下菌率が100%の薬剤があった一方で,DMI剤ではジフェノコナゾール(0%),QoI剤ではピリベンカルブ(0%),SDHI剤ではピラジフルミド(8.2%)とボスカリド(13%)で感受性低下はあまり見られなかった。また,薬剤散布の履歴から,感受性が低下した薬剤が複数の圃場で散布されていることが明らかとなった。今後,ナスすすかび病菌の薬剤耐性発生リスクを低減するためには,耐性リスクが低いと考えられる多作用点接触活性のある5グループの薬剤を予防的に活用しつつ,発生が認められたら感受性低下の見られていない薬剤をローテーションに組み入れていくことが重要である。

  • 佐々木 健, 赤尾 涼介, 上田 昇平, 平井 理愛, 平井 規央
    2025 年67 巻 p. 81-86
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/01
    ジャーナル フリー

    外来種アカハネオンブバッタAtractomorpha sinensis(以下,アカハネ)の農作物への影響を評価するための調査・実験を在来種のオンブバッタA. lata(以下,オンブ)と比較しながら行った。両種の季節消長を大阪府南部の野外で比較した結果,アカハネは初夏と秋季の年2回,オンブは秋季に1回の成虫のピークが認められた。2017,2022,2024年に行った大阪府南部7か所の定点調査の結果,アカハネの分布は低標高地から高標高地へ拡大する傾向が認められ,アカハネ侵入地では数年後にオンブに代わって優占していた。アカハネの飛翔力はこれまで知られていたよりもはるかに大きく,移動分散に有利であると考えられた。交配実験の結果,オンブとの種間交尾やマウンティングなどの繁殖干渉が認められ,秋季に両種の世代が重なることから,在来のオンブの衰退に関連している可能性が考えられた。以上の様な本研究の結果から,従来オンブのみの生息地においてもアカハネの拡大,置き換わりが生じ,秋にはアカハネの密度が増加するため,これまで被害の無かった作物にも害を生じる可能性が高いと考えられた。

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