抄録
有床義歯とくに総義歯作製に際してフランジ・テクニックを応用する場合, 筋圧中立帯を採得しなければならない.通常, 筋圧中立帯の採得にはワックスが用いられるが, ワックスの軟化温度, 操作時間, 機能運動の種類や強さなどによりその形態は様々の影響を受ける.今回著者らは, 筋圧中立帯の形態に影響を及ぼす因子について着目し, ワックスの温度特性について検討することにした.まず室温(25℃)から操作温度(47℃)までの, ワックスの表面温度と内部温度の経時的変化を観察したところ, 表面温度が47℃に達するには6∿8分, 内部温度が47℃に達するには7∿8.5分を要した.この値より, 臨床で筋圧中立帯の採得を行うには, 採得前に9分程度ウォーターバス中に浸漬しておく必要があると思われる.つぎに, 操作温度から口腔内温度(37℃)までのワックスの表面温度と内部温度の経時的変化を観察したところ, 表面温度が37℃に達するには9∿10分, 内部温度が37℃に達するには10∿11.5分を要した.さらに, 47℃から37℃までを2℃ずつの6段階に分けて, ワックスの圧縮率を調べたところ, 空嚥下時の大臼歯部舌圧を想定した荷重(60g/cm^2)を加えた場合には, 45℃まではほぼ100%の圧縮率を示したが, 温度低下に伴い低下し, 37℃ではほぼ92.0%であった.また, 空嚥下時の小臼歯部舌圧を想定した荷重(21g/cm^2)を加えた場合には, 47℃では97.2%の圧縮率を示したものの, 温度低下に伴い急激に低下し, 37℃では47.8%の圧縮率しか示さなかった.このように, 軟化温度や加える荷重の大きさがワックスの可塑性に影響を与えることがわかった.