九州歯科学会雑誌
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界面活性剤 CAE の口腔内消毒剤としての評価に関する基礎的研究
東 泉
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1997 年 51 巻 1 号 p. 242-264

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抄録

新規の口腔用消毒薬として, 化学構造からみても低毒性であることが期待できるカチオン界面活性剤N^α-cocoyl L-arginine ethylester DL-pyrrolidone carbonate (CAE)に着目し, その安全性と有効性について評価検討した.安全性の面では, 培養株細胞の50%付着阻止率からみたCAEの細胞毒性は, benzalkonium chloride (BKC)の約18分の1と非常に低いことが判明した.この付着阻止濃度で, CAEが細胞形態に及ぼす影響を電子顕微鏡で観察すると, 処理後数分で細胞表面に変化が認められ, 3分後には細胞内で核輪郭の不整や細胞質の電子密度の低下などが生じた.処理後40分以降には細胞融解が観察された.これをBKCと比較したところ, 形態変化の経緯は同じであったが, 変化の現れるまでの時間がCAEはやや速かった.マウスを用いた急性毒性試験では, CAE投与群の体重, 摂餌量および食餌効率が, コントロール群と比較して低下傾向を示した.しかし, これらのマウスの肝臓や腎臓の病理学的所見では異常は全く認められず, CAEの毒性は軽度で, 実用上ほとんど問題ないと判断された.さらに, モルモットを使ったアレルギー性試験ではCAEの感作原性は陰性と判定され, 局所刺激性と界面活性力はBKCより明らかに低かった.溶血作用の過程から, CAEの肝毒性の可能性が考えられたが, その毒性は現在汎用されているBKCよりかなり低いと思われる.有効性の面からは, 短時間接触によるCAEの殺菌効果を調べた.CAEの作用は速効性ではBKCにやや劣るものの, 接触時間や濃度を考慮することにより, 十分な殺菌効果を示すことが判明した.以上のことから, CAEの安全性は極めて高く, 剤形上若干の持続化を図ることにより, 有用な口腔用消毒剤として応用できると判断された.

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© 1997 九州歯科学会
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