九州歯科学会雑誌
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口唇閉鎖機能と口呼吸の関連性
坂東 智子
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2006 年 60 巻 1 号 p. 9-23

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抄録

安静時の口唇離開を引き起こすのには2つの要因が考えられる.一つは何らかの原因で口腔を通気して呼吸を行うため,口唇が離開するもの(口呼吸),もう一つは前歯部歯列,顎顔面形態の不調和から口唇の閉鎖を行うことが困難なもので,incompetent lip(口唇閉鎖不全)と呼ばれるものである.本研究では,オトガイ筋,咬筋,舌骨上筋の筋活動を,人為的鼻閉塞下で計測することで,口唇閉鎖機能と口呼吸の関連性について検討した.鼻閉でない本学学生(34名)を被験者とした.口唇閉鎖機能をオトガイ筋の筋活動より評価,competent lip群(CL群:11名)とincompetent lip群(IL群:23名)の2群に分けて安静時,咀嚼時について検討したところ以下のような特徴があった.1.CL群では鼻閉塞による口唇の離開は,通常呼吸での口唇の離開より有意にオトガイ筋の緊張を伴っていた.2.IL群では安静時の舌骨上筋の筋活動が,鼻閉塞時に最も低かった.3.IL群では口唇の離開と鼻閉塞に伴って咀嚼時間は短縮し,それは咬筋弛緩期の短縮によるものであった.4.咀嚼の不安定性を示す変動係数は,両群とも鼻閉塞によって増加するが,IL群のみが口唇の離開により,たとえ鼻閉塞であってもその減少を示した.5.CL群では,鼻閉塞で口唇を離開した咀嚼時(咬筋収縮期)の,IL群では口唇を閉鎖した咀嚼時(咬筋弛緩期)のオトガイ筋の筋活動が最も高かった.6.CL群では,鼻閉塞で口唇を離開した咀嚼時(咬筋弛緩期)の,IL群では口唇を閉鎖した咀嚼時(咬筋弛緩期)の舌骨上筋の筋活動が最も高かった.以上のことから口唇閉鎖不全を有する者は口呼吸習癖が機能的に定着しやすい可能性があり,口呼吸の弊害を避けるためにも矯正治療で口唇閉鎖不全を解消する必要があることが示唆された.

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© 2006 九州歯科学会
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