抄録
トルエンはシンナーの主要な成分で,吸入により酩酊感を得ることができる.近年まで,トルエンの神経薬理学的影響に焦点をあてている実験データは極めて少ない.この研究では,トルエンによる中枢神経系への作用を調べた.自由行動下のラットで,トルエン吸入曝露の間の大脳皮質内側前頭前野(mPFC)と側坐核(NAcc)におけるノルアドレナリンとドパミンの濃度変化をin vivoマイクロダイアリシスを用いて研究した.7,000ppmのトルエンの吸入は,mPFCとNAccで細胞外ノルアドレナリンとドパミン濃度を増加させた.NAccにおいて,ノルアドレナリンとドパミンは,それぞれの基準値に対して210%と178%まで増加した.mPFCにおいて,ノルアドレナリンとドパミンはそれぞれ,306%と183%まで増加した.両方の部位で,ノルアドレナリンの増加は,ドパミンの増加より大きかった.1,000ppmと3,000ppmのトルエンの吸入では,細胞外ノルアドレナリンとドパミンの濃度に有意な影響をあたえなかった.トルエン吸入は,薬物依存に特に重要な役割を果たす中脳辺縁系ドパミン神経に関与することが明らかになった.これらの結果はまた,吸入によるトルエンへの曝露がノルアドレナリン作動性神経の興奮性を高めることも示唆する.