九州歯科学会雑誌
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歯周病と細菌検査
吉田 明弘
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2011 年 65 巻 5-6 号 p. 169-178

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抄録

歯周病は,その発症に遺伝・環境因子と共に口腔細菌が大きく関与している感染症である.中でもPorphyromonas gingivalis,Tannerella forsythia のグラム陰性桿菌およびTreponema denticola の口腔スピロヘータが歯周病に強く関連する細菌として特に注目されている.これらの細菌の混合感染を Socransky らは red complex という歯周病の重篤度と強く関連する群として位置付けている.また,Aggregatibacter actinomycetemcomitans は本邦では比較的少ないが,若年者における侵襲性歯周炎の原因菌として注目されている.よって,歯周局所からこれらの細菌を検出する ことは病態把握において有益な情報となり得る. 歯周病発症における感染様式は,これらの口腔内常在菌の歯周局所での増加,いわゆる内因感染と考えられている. よって,歯周ポケット内でのこれらの細菌の有無だけを議論しても歯周病診断における意味はあまりない.歯周病が内因感染であるなら,健康な歯肉溝にもいわゆる歯周病細菌は存在するからである.細菌の有無を検出する定性的検出法は抗菌剤の選択の一助となるが,これだけで診断に使えるわけではない. そこで,著者らはリアルタイム PCR 法を用いた歯周病細菌の定量検出系を開発してきた.歯周病は口腔細菌の感染と宿主の免疫の関係を中心として発症する多因子疾患であり,感染以外の要因が深く関わることからも,発症に関す る細菌数のカットオフ値を決定することは非常に困難である.短期間において同一部位では,感染以外の要因はあま り変化しないことから,著者らは定量検出系を歯周病の診断ではなく治療前後に用いて,治療効果の判定に用いるこ とを提案している.開発した定量検出系を用いて,P. gingivalis およびT. denticola について歯周初期治療前後で解析したところ,ポケット深の減少と共に細菌数は減少し,ポケットの深さと菌数には強い相関がみられた. 本稿では,歯周病の診断・治療における細菌学的検査法の種類およびその使用について,著者らのグループが開発 してきた検査法を中心に考察した.

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