抄録
2012年の「周術期口腔機能管理」の保険導入以来,医科疾患治療時の有害事象の予防を目的とした口腔管理がよ り推進されている.しかし口腔管理方法の標準化や有効性の検証は未だ十分ではない.
頭頸部がんや上部消化管がん手術時の手術部位感染の予防,術後誤嚥性肺炎の予防のためには,唾液中の細菌数を 減少させることが重要である.含嗽が可能な場合は,含嗽を行うことにより唾液中の細菌数は減少する.挿管中の患 者の口腔内細菌数は著しく増加するが,ブラッシングや清拭では唾液中の細菌数を減少させることはできず,水によ る口腔洗浄が細菌数減少に有効である.しかし,唾液中の細菌数は短時間で再び増加する.洗浄後にポビドンヨード やテトラサイクリン軟膏を口腔内に局所投与すると,数時間細菌数を抑制することが可能である.筆者は気管切開を 伴う口腔がん手術患者に対して,テトラサイクリン軟膏を舌上に塗布することにより,手術部位感染が有意に減少す ることをランダム化比較試験により証明した.また口腔の感染巣からの血行感染により,離れたところにある手術部 位に感染を生じることがある.そのため手術前に口腔の感染巣を治療しておくことも重要である.
今後,それぞれの治療時に有効な口腔管理方法を標準化することと,有効性を検証することが期待される.